“コロナうつ”と呼ばれる精神状態の人が増えているという。

 馴れないリモート勤務、人と接する機会の減少、外出しないことから来る運動不足、家庭内での軋轢の表面化など、コロナ禍にはうつ症状を引き起こす要因はいくらでもある。たかだか直径100ナノメートルばかりのウイルスが勢力を拡大したあおりを受けて、万物の霊長たる人間が心を病んで倒れてしまうのだ。

(写真はイメージ)©iStock.com

 しかし、そうした二次的三次的な発症要因ではなく、ウイルスが直接的に作用して、うつ病を引き起こしている可能性を指摘する研究結果が報告された。

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 原因のウイルスは新型コロナではない。「ヒトヘルペス6(HHV-6)」という、昔からある、そして誰もが体内に持っている“お馴染み”にして“旧型”のウイルスなのだ。

誰もが赤ちゃんの時に感染するウイルス

 研究の責任者である東京慈恵会医科大学ウイルス学講座の近藤一博教授に解説してもらう。

「HHV-6は、誰もが赤ちゃんの時に感染するウイルスです。感染すると発熱し、突発性発疹を引き起こしますが、いずれ自然に治癒し、ウイルスはそのまま体内に潜伏感染し続けます。潜伏感染中は特に悪さはしないものの、宿主(ウイルスが棲みついている生物のことで、この場合は“人間”)が疲労すると、唾液の中に出てきます。

 その唾液の中のHHV-6が鼻の奥にある“嗅球”という器官に移動すると、HHV-6は“あるタンパク質”を作り出すことがわかったのです。このタンパク質は嗅球の細胞にカルシウムを流し込み、“アポトーシス”といって細胞が自死していくように誘導する働きを持っている。これによって脳は強いストレス反応を起こしてうつ病を発症していくのです」

ウイルスのマイクロモデル(写真はイメージ) ©iStock.com

 順序立てて説明するとこうなる。

(1)赤ちゃんがHHV-6に感染。突発性発疹を発症するが自然に治癒する
(2)そのウイルスが体内に棲みついたまま宿主(人間)は成長していく
(3)疲労した時、HHV-6が唾液中に出てくる
(4)唾液に混じった一部のHHV-6は嗅球に移動する
(5)嗅球に棲みついたHHV-6は、あるタンパク質を作り出す
(6)そのタンパク質が嗅球の細胞にカルシウムを流入させて嗅球細胞の自死をそそのかす
(7)嗅球の細胞が自死した結果、脳は強いストレス反応を起こして「うつ病」が起きていく