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「うつ予防薬」が生まれるかも知れない

 この研究により、これまで曖昧模糊としていたうつ病という病気の発症機序が、かなり明確に説明できるようになった。このことは、うつ病という疾患の診断と治療を一変させる可能性を秘めている。

「これまでうつ病治療に使われてきた薬は、うつ病によって沈んでいる気持ちを持ち上げる作用のものだった。それはうつ病ではない元気な人が飲んでも気分がハイになるため“ハッピードラッグ”などと呼ばれています。

 でも、今回うつ病の原因となるウイルスと遺伝子(タンパク質)が特定できたので、この発見をもとにうつ病のメカニズムが解明できれば、その働きを阻害する治療薬を使うことで、安全かつ確実に治療効果が得られることになる。あと数年で“うつと疲労”の関係が解明できるメドが立っている。そこまで行けば治療薬の開発にはそれほど時間はかからないでしょう」

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ウイルス不活性化作用のあるトローチのような「うつ病予防薬」が誕生するかも知れない(写真はイメージ) ©iStock.com

 治療薬ばかりではない。場合によっては「予防薬」の開発もあり得る。

「最初にHHV-6が唾液に出てきた時点でウイルスを始末して、嗅球に行かないようにすることもできるかもしれません。さすがに歯磨きや舌の清掃程度ではウイルスを除去することはできないけれど、ウイルス不活性化作用のあるトローチのようなものが開発されれば、効果が得られるかもしれません」

予防法と治療法が確立された時に起きること

 うつ病のメカニズムが解明され、予防法と治療法が確立されれば、自殺者の数を大幅に減らすことができるのはもちろん、労働力の確保という点でも大きなメリットをもたらす。

(写真はイメージ)©iStock.com

「SITH-1抗体価は、実用化すれば血液検査で比較的簡単に調べられるようになるはずです。単にうつ病やうつ症状で苦しんでいる人が救われるだけでなく、『何の病気だかよく分からないから、とりあえずうつ病ということで……』という曖昧な診断を下されていた人の対応も変わってくるはずです」

「うつ病なんて甘ったれているだけだ」とか、「心を鍛えればすぐによくなる」などと精神論で片付けてきた昭和風上司は立場が悪くなるだろう。また、うつ病を自称して会社や学校をサボっていた人も、洗い出されてしまう危険性もある。

 今年は、人間の弱さと脆さ、儚さを、ウイルスによって思い知らされる年なのかもしれない。