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鑑定書作成警官「理想を言えば、そうです。はい」

松井「今回は、理想通りには、いっていないということですね」

鑑定書作成警官「常識の範囲内でやっています」

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松井「あなたにとっては、それが常識なんですか」

鑑定書作成警官「はい」

 松井は苛立つ。左足がアクセルペダルに「届いた」とする写真について「とてもアクセルを底まで踏み込んでいるように見えない。あなたにはそう見えるのか」と質問した。

 元福岡高検検事長だが、捜査経験も豊富。大柄で貫録がある。

鑑定書作成警官「写真ではなくて、私は肉眼で、目視で踏まれているのを確認していますので、先生がおっしゃっているのは写真の撮れ具合で。実際には、これはちゃんと踏めています」

松井「私の目には、左足がアクセルペダルに触るか触らないか分からないようにしか見えない」

鑑定書作成警官「踏んでいると見えます」

トヨタの高級車ブランド「レクサス」のハイブリッドモデルLS500h ©AFLO

鑑定書作成警官「あなたの目じゃなくて、はっきりとわかる形の写真、ないしビデオを証拠化してここに付けるべきだったのでは」

 後輩の立ち合い検事が「異議。誤導だ」と指摘したが、松井は引かなかった。

松井「一番重要な写真を撮っていないのか、いたか、それをどうして添付していなかったかということですので、何ら誤導ではない」

 そして重ねて寛に聞いた。

松井「なぜ、完全に踏み込んだ写真を撮らなかったのか」

鑑定書作成警官「その写真がそうなんですとしか申し上げられない」

 仮想運転者がハンドルを握ってアクセルを踏み込む全身写真もなかった。

「その写真が、全然出てこないのはどうしてですか」

 続いて、被告人の石川本人が尋問に立った。現役時代は「カミソリ達紘」と恐れられた元特捜のエースである。

石川「1月24日の再現実験。検事の指揮の下でやったんじゃないですか」

鑑定書作成警官「そうですか」

 少し気が高ぶったか、石川の声はかすれ気味だ。

石川「そうですか、じゃないですよ」

鑑定書作成警官「私は計測員でその日は行ったので」

石川「あなたは、私の目の前で事故車の座席の位置を測定してきて、曲尺(かねじゃく)で私の目の前で示されましたね」

鑑定書作成警官「私が計測しました」

石川「あなたが計測したあと、あなたが私にこの座席に乗ってくださいと指示されましたね」

鑑定書作成警官「はい」

石川達紘弁護士 ©文藝春秋

石川「座った後に足はどうなってましたか」

鑑定書作成警官「足は届かないということで」

石川「あなたは、その場で目で見ているでしょう」

 立ち合い検事がここで遠慮がちに異議を唱える。

検事「言い合いの様相。必要であれば、弁護人からお尋ねいただくか」

 裁判長も「冷静に」と諭すが、石川の追及は続く。80歳(当時)とは思えない迫力だ。

石川「それで、あなた、背後にカメラマンがいて、右背後から私の足の写真を撮ったのは見ておられますね」

鑑定書作成警官「はい、計測しながら」

石川「その写真が、全然出てこないのはどうしてですか」

鑑定書作成警官「わかりません」

石川「だって、実況見分を、調書をあのとき作ったでしょう。そのとき撮った写真が、警察に要求しても全然出てこないんですけれども、どうしてですか」

 検事がたまりかねたように異議を申し立てる。