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検事「証拠開示のやり取りを警察官に求めるのは意味がない」

石川「計測していたんじゃなくて、むしろあなたが主体的にこの実況見分をやっているように見えた」

「異議」。検事が苛立つ。「意見を押し付ける尋問になっている」

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「別に押し付けているわけじゃない。聞いてるだけです」と石川は言うが、裁判所にたしなめられ尋問を撤回。

石川「あなたの鑑定書には、1月24日に実際に私がその現場にいて、足の長さを見て、どういう状況かをあなたが見ていながら、その内容は鑑定書に盛られなくて、その後の2月8日に改めてあなたが仮想運転者を使ってやったのは、それを鑑定書に書いているのはどうしてですか。私が実際にいたのに、どうして私のことを書かなかったんですか。あの実況見分を」

鑑定書作成警官「それは、記憶に基づく再現で出来上がった資料なので、これを鑑定書の疎明資料として使うことはちょっとできないという判断です」

裁判所は再現見分を行うべきではないか

 この日、証人尋問に先立ち、石川側が事故時の運転状況を再現見分したビデオを裁判所が証拠採用し、法廷で再生した。筆者が記者席から見た限りでは、画面が暗く、撮影角度のせいもあるのか石川の左足とアクセルペダルの距離感はよくわからなかった。先に法廷で証拠調べをした2月8日の仮想運転者による再現見分のビデオも同様だった。裁判官の受け止めも似たようなものではなかろうか。

 石川側は、公判前整理手続きの段階から、裁判所による再現見分を求めてきたが、裁判所は検察の反対を受けて判断を留保し、双方の立証が終わった段階で見分を行うかどうか判断するとしている。そのため、双方が、それぞれの見分記録を証拠請求することになった。

©iStock.com

 裁判には二つの基本原則がある。裁判官は、公判で直接取り調べた証拠だけに基づいて事実を認定し判決するという「直接主義」と、公判の手続きは書面ではなく口頭で語られた資料によって行われなければならないとする「口頭主義」だ。

 2009年の裁判員裁判導入後、この「直接主義・口頭主義」の原則に沿った刑事裁判が増えたと指摘されている。裁判員裁判も、それ以外の裁判も、原則は同じである。この石川の裁判でも、裁判所は「直接主義・口頭主義」の原則を守るべきである。公判前に裁判官の目の前で事故当時の石川の運転状況の再現実験をしていれば、「見えた」「見えない」「写真の撮れ具合」などという不毛な応酬はしなくてすんだ。

 今からでも遅くはない。裁判所は再現見分を行うべきではないか。そうすれば裁判官の「左足が届いたかどうか」に対する心証は即座に固まるだろう。そのうえで、検察、被告側双方の主張を勘案して判決を下せばいい。それが裁判の王道ではないか。

 次回公判は7月16日午後1時半。石川に対する被告人質問が行われる。