スティーヴン・バノン 前米首席戦略官
「われわれが選挙で勝ち取ったトランプ政権は終わった」
NHK NEWS WEB 8月19日
トランプ政権の瓦解が止まらない。7月21日、トランプ大統領を記者会見で擁護し続けてきたホワイトハウスのショーン・スパイサー報道官が辞任。7月28日には、共和党主流派のラインス・プリーバス首席補佐官が事実上更迭された。さらに7月31日、わずか10日前に就任したばかりのアンソニー・スカラムッチ広報部長が更迭されている。もうめちゃくちゃだ。
そして、バージニア州シャーロッツビルで起きた白人至上主義団体と反対派の衝突事件で全米が揺れていた8月18日、ホワイトハウスはトランプ大統領の側近で“陰の大統領”とも言われたスティーヴン・バノン首席戦略官を解任したことを明らかにした。
バノン氏は保守系ニュースサイト「ブライトバート」を率いていたが、2016年8月にトランプ氏の選対本部に入り、トランプ氏に勝利をもたらした。排外主義的なアメリカ第一主義を掲げ、保護主義的な貿易政策や強硬な不法移民対策などを推し進めてきた人物で、白人至上主義、反フェミニズム、反ユダヤ主義などを標榜する「オルタナ右翼(オルト・ライト)」の大物とされていた。
アメリカのメディアはバノン氏の解任について、さまざまな説を報道している。CNNは、バノン氏が北朝鮮について「軍事的解決などない。忘れてしまえ」と主張したことについて腹を立てたトランプ大統領が更迭を決断したと伝えている。
ワシントン・ポストは7月末に就任したジョン・ケリー大統領補佐官が派閥争いで混乱するホワイトハウスの立て直しを図り、バノン氏の更迭を決めたと報じた。元海兵隊で無党派のケリー大統領補佐官は、あちこちで暴言を撒き散らしていたスカラムッチ氏も解任している。ケリー氏に近い人物は「彼はホワイトハウスでの混乱をなくすだけでなく、特定のイデオロギーに操られないようにする意向だ」と話していたという(ハフィントンポスト 8月19日)。
また、ワシントン・ポストはシャーロッツビルでの事件に関連して、白人至上主義者のバノン氏の更迭を求める声がホワイトハウス内で高まっていたとも報じている。まさにバージニア州のマコーリフ知事が語ったとおり、「シャーロッツビルにもバージニア州にも米国内にも、あなたたち(白人至上主義者)の居場所はない」ということだ(CNN 8月14日)。アメリカのメディアはバノン氏の盟友で、同じく「ブライトバート」から政権入りしたセバスチャン・ゴルカ大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)も辞任に追い込まれるのではないかと伝えている(NHK NEWS WEB 8月19日)。
トランプのために、トランプの敵と戦争を始める
解任されたバノン氏はアメリカの一部メディアの取材に応じて、「われわれが選挙で勝ち取ったトランプ政権は終わった」と述べた上で、今後は共和党主流派などが「大統領を穏健な道に進めさせようとするだろう」と政権の針路が変わる可能性を指摘した(NHK NEWS WEB 8月19日)。
一方、バノンはこうも語っている。「自分はホワイトハウスを去り、トランプのために、トランプの敵と戦争を始める」(BBC NEWS JAPAN 8月19日)。東洋英和女学院大学大学院客員教授の中岡望氏は、バノンのこの発言について「バノンはホワイトハウスの外からトランプ大統領に圧力をかけると言っている」と解釈している(現代ビジネス 8月21日)。トランプ大統領はさっそく「バノン氏の貢献に感謝したい」とツイッターで謝意を表明した。バノン氏との関係悪化を回避しようとしているようだ(NHK NEWS WEB 8月20日)。オルタナ右翼の力を借りて大統領になったトランプ氏の今後の動向が注目される。