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当然ながら取材は歓迎されていない

 廊下の突き当たりにはまた扉があって、建物の内部は迷路のようだった。ようやく狭い応接室に通された。ソファーでは幹部たち4人がテレビを観ながら談笑していた。

「お世話になります」

 幹部たちは顔をしかめた。

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「あのな、雑誌に載せるのはもちろんやけど、今日見たことは全部なかったことにしてもらう。はっきり言うとくが、余計なことされたらシャレにならんで」

 怒鳴られているわけではないが、歓迎されてもいない。

 口ひげを蓄えた他の幹部が続ける。

「客がいる間、撮影は一切禁止や。もめ事になるさかい博奕が終わったあと、模擬戦をするまでカメラを取り出すのもあかん。録音も駄目や。盆中をうろちょろされても困る」

 くどいほど何度も釘を刺される。直立不動で「はい。分かりました」と繰り返した。学校の職員室で説教されているような気分だ。

 一通り注意を受けると、反対側にある別の出入り口を行くよう指示された。

 再び長い廊下を抜けると、そこは盆中だった。

実際の盆中を使って行われた手本引きの模擬戦の様子。一般的な博徒の賭場では客同士を競わせ、勝った側から一定の額を寺銭として徴収するが、本引きは博徒と客(写真右)が勝負し、金を奪い合う ©鈴木智彦

「勝負!」

 威勢のいい声が聞こえる。ようやく来た。感無量だ。

関西では盆中、関東では賭場

 盆中とは博奕場のことである。ヤクザの分類に“博徒系”というカテゴリーが残っているのは、かつて盆中がヤクザの主要なシノギだった名残だ。ボンクラ――鈍く見通しのきかない様は、盆に暗いというヤクザの符丁から一般に普及している。関東では盆中と言わず賭場という。完全に違法な博奕場であることは同じでも、ゲームの種類は違っており、西日本は本引き、東日本ではバッタ巻きが行われる。本引きは一から六までの目を当てる博奕で、胴元と客がその場の金を取り合う。バッタ巻きは丁半博奕のようなもので、客同士に金の奪い合いをさせるから、胴元が損をすることはない。主催者にとって本引きはリスクが高い。そのぶん、駆け引きの妙があって、勝負にはドラマ性がある。