6月30日、中国全人代常務委員会で可決と同時に施行された「香港国家安全維持法(香港国安法)」の衝撃が世界に広がっている。同法が香港における自由・人権・民主主義を根底から覆しかねないことはもちろんだが、香港以外の国の人々、例えば日本人にも影響が及ぶ可能性があるからだ。同法により日本人が逮捕されることはありうるのか。リスクマネジメントに詳しい田畑弁護士が解説する。

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「香港の空港でのトランジットでも危ない」?

 ここに至るまで香港の民主化運動などは世界的に大きな注目を集めてきましたが、今回の「香港国家安全維持法」の成立をもって、端的にいえば「香港が陥落した」と言う印象を持つ人が多いようです。

 さらにここにきて同法下では日本人に対する逮捕のリスクすら存在するということがインターネットなどで話題になっています。こと台湾の独立や香港の民主制を支持する人が多い日本では「空港でのトランジットだけで捕まるかもしれないのでもう香港や中国には行けない」「香港や台湾、ウイグルの独立についてリツイートしたことがあるだけでいつ捕まってもおかしくない」などと悲観的な声も多く聞かれます。

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 実際のところ、我々、「日本に住む非中国人・非香港人」が負うリスクはどのようなものでしょうか。オフィシャルなものではありませんが、下記サイトにあげられた条文の全訳を参考にして検討してみましょう。
https://news.yahoo.co.jp/articles/e3ecf09f2a859fe481e9c1c81709882c787a6cf5

【1】何をすると犯罪になるのか

 そもそも、今回の法律で「香港や台湾、ウイグルの独立についてリツイート」することが罪になるとしたらどんな内容なのでしょう。上記サイトの訳文によれば、着目されているのは下記の第3章第1節第20条および21条でしょう。

第3章 犯罪と罰則 

第1節 国家分裂罪

第20条 いかなる人でも組織し、策略を練り、実施或いは以下の主旨に関与し、国家の分裂や国家の統一を損なうことを目的にした行為を図るものならば、武力や武力に相当する威嚇を以てこれを処罰する。

 1)香港特別行政区または中華人民共和国、その他いかなる地域から、中華人民共和国を離れて出ていく。

 ~中略~

 上述の罪を犯した者は、主要なまたは重大な犯罪について、終身刑または10年以上の懲役。積極的に参加した者は3年以上10年以下の懲役。その他参加者は3年以下の懲役、或いは拘留・保護観察処分。

 第21条 いかなる者でも扇動、支援、教唆、金銭で他人を支援することをした場合、本法律第20条の規定によって処罰される。状況が深刻な場合は、5年以上10年以下の懲役刑が言い渡され、状況が比較的軽い場合は、5年以下の懲役刑、拘留、または保護観察処分が言い渡される。