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2020/07/14

 では日本の法律には、外国人を処罰する規定はないのでしょうか。内乱、その予備及び陰謀、内乱等幇助、通貨偽造などの罪については我が国の刑法も以下のように定めています。

(すべての者の国外犯)

 第二条  この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯したすべての者に適用する。

 一  削除

 二  第七十七条から第七十九条まで(内乱、予備及び陰謀、内乱等幇助)の罪

 三  第八十一条(外患誘致)、第八十二条(外患援助)、第八十七条(未遂罪)及び第八十八条(予備及び陰謀)の罪

 四  第百四十八条(通貨偽造及び行使等)の罪及びその未遂罪(以下略)

 つまり、日本に対する内乱を起こしたり、起こそうとした外国在住の外国人、外国で通貨偽造を行った外国人は、我が国の刑法で処罰できるわけです。内乱の首魁が外国にいると手を出せない、というのはおかしな話なので、このような考え方(保護主義)自体は取り立てて珍しい規定の仕方ではありません。

 付け加えると、「自国船舶・自国航空機内における犯罪に対しては犯人の国籍を問わず自国の刑法を適用する」という「旗国主義」も日本を含む世界が採用しているスタンダードです。

 したがって今回の法律の問題は「何が犯罪とされるかがブラックボックスとなっている点」に集約されると言えるでしょう。

 また、カルロス・ゴーン氏の問題でも話題になった「犯罪人引渡し条約」の問題は無視できません。これは犯罪人の引渡しの義務を相互に約するための条約で、つまり香港とこの条約を結んでいる国(2020年4月時点で20国)は、香港で犯罪人とされた者について引渡しの義務を負うことになります。つまり、香港や中国を訪問すらしていなくても、締結国を訪問することで、身柄拘束され、香港に引き渡されてしまう可能性があるということです。

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 本法の制定をきっかけとして、7月に入りカナダやオーストラリアは条約の停止を宣言していますが、その他の締結国である欧米先進国がどのように対応するかには注目すべきでしょう。

【3】今回の法律で何が変わったのか

 こうしてみると、今回の法律ができたことで「台湾や香港の独立についてリツイートしたことがある日本人が、香港国際空港に上陸するだけで、3年以上の懲役を科せられる」ということも非現実的ではないと言えます。

 一方で、こうした状況は、今回の法律でいきなり生まれたわけではありません。

 実を言うならば、これらと同様の「国家の分裂」を企図する行為を犯罪としている点は、2015年に制定された「中華人民共和国国家安全法」(https://zh.wikisource.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%8D%8E%E4%BA%BA%E6%B0%91%E5%85%B1%E5%92%8C%E5%9B%BD%E5%9B%BD%E5%AE%B6%E5%AE%89%E5%85%A8%E6%B3%95?uselang=ja)にほとんど同じような内容が規定されています。香港より民主派が弱かったマカオでは2009年に国家安全法が成立しています。