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「感情的な裏切り」と「性的な裏切り」

 このことに気づいたのは進化心理学者のデヴィッド・バスで、次のようなかんたんな質問によって男女の嫉妬のちがいを証明した(※)。

【問1】過去の真剣な恋愛、いま好きな相手、あるいは将来望む恋愛について考えてください。そのうえで、あなたが熱烈に愛するひとが、他の相手に関心を持っていることがわかったとします。次の状況を想像したとき、どちらがより傷つき、怒りますか?
(A)あなたの恋人はその相手と深い感情的なつながりがある。
(B)あなたの恋人はその相手と情熱的なセックスをしている。

【問2】あるいは、次の状況を想像したとき、どちらがより傷つき、怒りますか?
(C)あなたの恋人はその相手と、異なる体位でセックスしている。
(D)あなたの恋人はその相手と恋に落ちている。

 この質問では、「性的な裏切り」と「感情的な裏切り」のどちらがよりマシかを訊いている(「どちらもイヤ」という答えはできない)。

 以下の図表は「性的な裏切りの方がより傷つく」と答えた(BとCを選んだ)男女の割合を示したもので、一見してはっきりとわかる性差がある。

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 最初の質問では、恋人が別の相手と情熱的なセックスをしていることを想像して怒りに駆られるのは男が60%で、女が17%だ。これは女の回答者の83%が、彼氏がほかの女とセックスするよりも、深い感情的なつながりがあることに嫉妬するということだ。次の質問では、寝取られることへの男の嫉妬が若干下がるが、やはり男女の回答に大きな性差がある。

 男は女の「性的な浮気」に不寛容で、女は男の「感情的な浮気」に不寛容だ。なぜこのようなちがいが生じるのだろうか?

嫉妬の男女差

 #MeToo の現代では想像できないだろうが、昭和の時代には妻帯者が風俗で遊ぶことは「男の甲斐性」と見なされた。映画『極道の妻たち』で描かれたように、ヤクザの組長が二号、三号の女に子どもを産ませることも当たり前だった。

©iStock.com

 夫が風俗で遊んでも、子どもができなければ、「資源」の大半は妻のものだ。「お妾さん」とのあいだに子どもができても、正妻との序列が厳格に決められているのなら、妻の座は揺るがないばかりか、かえってステイタスが上がったりする。

 複数の妻子を養うには、きわめて大きな「資源」が必要になる。ヤクザだけでなくほとんどの伝統的社会では、そのような男(ビッグマン)の正妻が、女集団のヒエラルキーの頂点に立つのだ。

 だが夫が別の女と強い感情的なつながりを持つと、「資源」がその女に奪われる恐れがある。これは自分と子どもたちにとってきわめて重大な「生存の危機」なので、それを素早く察知し、防ごうとする。このように女の嫉妬は、「夫(恋人)の資源をいかに確保するか」から理解できる。