1ページ目から読む
3/3ページ目

「托卵」に対する男の対抗戦略

 それに対して男にとっての最大のリスクは、別の男の子どもを知らずに育てさせられる「托卵」だ。そのため、子どものできる可能性がない「感情的なつながり」には比較的寛容な一方、妻(恋人)が他の男とセックスする徴候にはきわめて敏感になる。

「ほんとうにそうなのか」と疑うひとには、ここから導かれる予想を書いておこう。

 妻が同窓会などでかつての男友だちに会うことに、夫はほとんど関心を示さない。それに対して、夫が会社の若い女の部下と親しくすることに妻は強く嫉妬する。──心あたりがあるのではないだろうか。

ADVERTISEMENT

©iStock.com

 女の「托卵」に対する男の対抗戦略は、不幸なことに、人類史の大半において「暴力」だった。妻や恋人に言い寄る男を殴り倒し、ほかの男に関心を示す女を暴力で支配して、「血のつながらない子ども」に貴重な資源を割くことがないよう防衛してきたのだ。

殺人の加害者、被害者に男が多い理由

 その結果、ほとんどの殺人は男により、男に対して行なわれる。国連の調査では、殺人事件の加害者の95%、被害者の79%が男だ。

 男による女への暴力も深刻で、アメリカの大学生を対象に行なわれた調査では、女性の34%が、拒絶した男性につけまわされたり、いやがらせをされた経験がある。アメリカで殺害された女性の5~7割が夫、元夫、恋人、元恋人の被害者だとされる。その原因は嫉妬であり、男性の独占欲だ。

 いまではネットで「DNA親子鑑定キット」を売っているから、自分の子どもかそうでないかはかんたんに判別できる。こうした技術が普及すれば女の「托卵」戦略は不可能になり、男の暴力も不要になるだろう。

©iStock.com

 これは(たぶん)よいことなのだろうが、遺伝子が科学技術に適応して進化するまで、おそらく1万年程度はかかる。その間、女はずっと男の理不尽な暴力に怯えつづけなくてはならないのだろうか。

 しかし、絶望することはない。科学技術が進歩すれば、いずれ遺伝子組み換えによって、男から「暴力性」を取り除くことができるようになるはずだ。そのときまだ「恋愛」が残っているかどうかはわからないが。

(※)David M. Buss, Randy J. Larsen, Drew Westen and Jennifer Semmelroth(1992)Sex Differences in Jealousy: Evolution, Physiology, and Psychology, Psychological Science