美人の女も、年をとるとモテなくなる。イケメンの男も、失業していたり低収入だったりすると女から相手にされない。──これがなぐさめになるかはわからないが。

 外見の魅力は「モテ」だけでなく、人生のさまざまな場面に及んでいる。今回はそれを驚くべき方法で確認した研究を紹介しよう。

 最初に断っておくと、1966年に発表されたオリジナルの論文は残念ながら入手できなかったので、この研究を取り上げた1974年の書籍からの孫引きになる(※2)。

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醜い囚人に整形手術をすると

 研究者は、外見の社会的影響を知るために、刑務所の囚人に整形手術を行なった。なぜこんなことをしたかというと、「醜い者が犯罪者になりやすく、外見がよくなれば罪を犯しにくい」という仮説が正しいかどうかを調べるためだ。

 実験の対象はニューヨーク市刑務所に収監され、釈放を目前に控えた「醜い囚人」だ。被験者は(1)整形手術のみを受ける、(2)整形手術と(職業訓練など)社会復帰の支援を受ける、(3)社会復帰の支援のみを受ける、(4)なにもしない(対照群)、の4つのグループに割り振られ、さらに薬物(ヘロイン)依存症かそうでないかでも分類された。

©iStock.com

 囚人が釈放されると、研究者は1年後にどうなったかを調べた。その結果は、薬物依存症者については、整形手術を受けても、社会復帰の支援を受けても、再犯率にほとんどちがいはなかった(なにをしてもムダだった)。

整形手術の効果

 だが、それ以外の被験者には信じがたいほどの効果があった。整形手術を受けた囚人は(社会復帰の支援を受けたかどうかにかかわらず)、なにもしない囚人に比べて再犯率が36%も低かったのだ。

 その一方で、関係者が困惑するような結果もあった。社会復帰の支援のみを受けた囚人の再犯率は、なにもしない囚人より33%も高かったのだ。

 

 なぜこんなことになったのだろうか。第一印象の大きな影響力を考えれば、整形手術の効果については説明が可能だ。

 研究者の定義する「醜さ」とは、ナイフでつけられた傷、喧嘩で欠けた耳、薬物の注射痕、刺青などだ。これは、「私は犯罪者(薬物依存症者)です」という看板をぶら下げているようなもので、社会に戻っても(犯罪者仲間以外には)誰にも相手にされず、生きるために犯罪を繰り返すしかなくなるのだろう。

 薬物依存症者に(注射痕を消す)整形の効果がなかったのは、それが脳の報酬系のトラブルだからだろう。薬物への渇望は、外見を変えたくらいではどうしようもないのだ。