負の烙印からの解放
研究者は、スカーフェイス(刀傷のある顔)のような「顔貌の醜さ」を整形する方が、刺青のような「ボディの醜さ」を変えるよりも効果が高いと述べている。これも、「顔」が第一印象の大部分を占めることから理解できるだろう。
窃盗や恐喝などで収監されていた囚人は、整形手術によって「犯罪者」の看板が外れたことで、社会復帰がずっと容易になった。醜さがスティグマ(負の烙印)になっていたひとたちが、そこから解放されて自尊心を取り戻したということもあるだろう。
社会復帰の支援のみを受けた囚人の再犯率が対照群より3割も高くなった理由は、この実験からはわからない。ただしこのグループは、「社会的関係性が貧しく、それによって社会からより排除される傾向があった」とされる。
職業訓練などの囚人向けのプログラムに問題があって、支援の趣旨とは逆に、「更生なんかできっこない」という絶望を植えつけたのだろうか。しかしそうなると、整形手術と社会復帰の支援を両方受けた囚人の再犯率が低くなった理由が説明できない。
整形手術は更生の手段となり得るか
この実験が示したのは、スティグマを負ったまま社会復帰の訓練を受けるのは逆効果だが、「犯罪者」の看板を外すと負の効果は消えるらしいということだ。「出所を間近に控えた囚人に社会復帰の支援はしない方がいい」というのは関係者には受け入れがたいだろうが、職業訓練によって逆に社会から排除される意識が強まるのかもしれない。
「半世紀も前の実験に科学的な価値があるのか」という批判は当然あるだろう。「囚人への整形手術が有効だとの客観的なエビデンスはほとんど確認できない」との報告もある。しかしその一方で、陪審員(あるいは裁判官)の判決が被告の外見によって変わることが繰り返し示されている。
この実験を主導した研究者は、これほど効果があったにもかかわらず、「整形の費用を考えれば、それに見合う利益があるかは疑問だ」と結論している。だがいまでは整形技術は大きく進歩し、費用は安くなった。だからといって「囚人に整形手術をしろ」とはいわないが、日本でもエビデンス(証拠)に基づいた議論ができれば、罪を犯したひとたちの更生の道も開けるのではないだろうか。
(※1)越智啓太『美人の正体 外見的魅力をめぐる心理学』実務教育出版
(※2)Ellen Berscheid and Elaine Walster(1974)Physical Attractiveness, Advances in Experimental Social Psychology