遺族の方から「そっとしておいてくれ」の声
今回は遺族の取材にも行きました。6日の夕方、熊本県が被害者の方の名前を公表したので、被害者の顔写真を取りに動きました。事故や災害の時、私たち報道機関は、亡くなった方の写真を掲載しなくてはなりません。心苦しいけれど、災害を報じる記者としてやらなければならない仕事の一つです。
人吉市内の中心部に亡くなられた人がいることが分かりました。私は遺族のもとに向かいました。
「亡くなられたことは大変残念ですが、生きた証を残したいと考えております。お写真をいただけないでしょうか」
私はそのようにお願いしました。しかし、遺族の方は「そっとしておいてくれ」と仰いました。デスクからは「ご遺族がダメだと言ったら無理をするな。載せるな」という指示がありました。「一度ダメだと言われたら引け。強引にはするな」と言われていたので、私はそのまま引き返しました。
熊本地震の時もそうでしたが、全国的なニュースになる災害が起きると、全国紙やキー局の取材陣が大勢入ってきます。彼らに自覚はないと思うのですが、人海戦術でけっこう強引な取材をしていくこともよくあります。しかし、私たち「熊日」は違う。災害が終わってもここにずっと住み続けるし、熊本で新聞を発行し続けるからです。だからこそ、地元の人たちが望まないような取材は控えようという判断をしたのです。災害からの再建を伝えていくのが私たちの仕事だと思っています。
7月7日の一面コラム「新生面」にはこう綴られています。
〈県民が見上げる同じ空を、窓越しに仰ぎながら本稿を書いている。雨の予報は続いている。胸の奥が締めつけられる思いがする。地元紙で働く者なら、誰でも思い当たるだろう。県内で大きな災害が発生した時、私たちは多かれ少なかれ、当事者である〉
実は今、熊本日日新聞は、豪雨で被災された方々が情報を得られるようにという思いから、紙面ビューワーを無料で開放しています(https://kumanichi.com/)。県民に寄り添う新聞を作っていきたい。私も、「熊日」の記者として、その思いを抱き、取材をしていきたいと考えています。
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熊本日日新聞の植木泰士記者の取材ルポ全文は、「文藝春秋digital」で配信している。