しかし、この「緊急通知」はすぐにネットに流出し、民衆の知るところとなる。翌12月31日、武漢市衛生当局は27人の感染を発表したものの、この時点では「明らかな人から人への感染や医療従事者への感染は見つかっていない」としている。ちなみに自らも感染し、その後命を落とした李文亮医師が、同僚に対して警鐘を鳴らしていたのはこの前日のことだ。
国が派遣した専門家にも「医療従事者の感染ない」とウソ説明
中国メディア「財経」は、中央政府が1月8日から下旬にかけて武漢に派遣した専門家チームのメンバーのインタビュー記事を2月に掲載している。
この専門家は当時、ヒトヒト感染の存在を疑い、病院などを訪れるたびに「医療従事者への感染があるか?」と聞いて回ったという。医療従事者への感染があれば、ヒトヒト感染の重要な証拠となるからだ。
しかし、「どこへ行っても『ない』という回答だった」「結局、正式な報告のひとつも受けられず、どのようにこの病気が見つかったのか、初期にどのくらいの病例が見つかったのかなど全く把握できなかった」「今の実情から見るとウソをついていたんだろう」などと振り返っている。しかも調査には、地元の衛生当局者や病院の院長などの幹部も帯同していたという。この証言からは地元当局者らが、国が派遣した専門家に対しても実情を明かしていなかったことが伺える。
李文亮医師は1月10日ごろから症状が出始め、12日には入院している。中国メディア「第一財経」のまとめによると、13日にも看護師3人の感染が確認され、「医療従事者の感染」が顕著になっていた。14日になってようやく武漢市衛生当局は「明らかなヒトヒト感染は見つかっていないが、限定的なヒトヒト感染の可能性は排除できない」と表現を変えた。
こうした切迫した状況にもかかわらず、1月6日から10日までは武漢市の人民代表大会、11日から17日まで湖北省の人民代表大会や関連会議が開かれている。この期間中、武漢市衛生当局は11日に41人の感染確認を発表したのみで、それ以外は新たな感染者についての発表はない。
そして、閉幕翌日の18日になって新たに4人の感染を発表した。武漢市の幹部は、至上命題である会議の「円満開催」のために、期間中の発表をなるべく避け、市や省の代表団に対してすら実情を明かしていなかった可能性がある。