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北朝鮮を思うと、子供の頃のおぼろげな記憶が……

――『TRUE NORTH』を作ることになったきっかけは何だったのでしょうか?

清水 『happy』を撮り終えて「次は何をしようかな」と考えているときに、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの代表にこう聞かれたんです。「エイジは北朝鮮についてどう考えているの?」と。それはずっと頭の中にありながら、あえて触れずにきたテーマでした。北朝鮮について考え始めると、子供の頃のおぼろげな記憶が蘇ってきた。おそらくはおばあちゃんの言葉だったと思いますが「エイジ、悪いことをすると収容所に連れていかれるよ」と言っていた。

 子供心にそれはとても恐ろしい場所だと感じていました。

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 調べてみると、強制収容所は今もあって何十万人もの人が囚われ、過酷な状況に置かれている。その中には日朝両政府と赤十字が関わった「帰還事業」で北に渡った元在日の人たちが少なからず含まれていることが分かりました。

「帰還事業」では一部のメディアが北朝鮮のことを「地上の楽園」と喧伝し、それを信じて海を渡った在日の人も大勢います。「自分の意思で行ったのだから」と片付ける風潮もありますが、国やメディアに騙されたも同然です。その人々が在日であったがためにスパイ容疑をかけられて強制収容所に入れられている。帰国者に付いて行った日本人妻、日本人夫やその子供たちもいます。この実情を一人でも多くの人に知ってほしいと思いました。

兄の「ヨハン」(映画『TRUE NORTH』より)

表現を和らげ、感情移入できるアニメ

――アニメという表現方法を選んだ理由は?

清水 脚本を書くために脱北者の人たちの話を聞きました。収容所を経験し、カメラを回しても良いと言ってくれた人が5人。1人は「帰還事業」で日本から北朝鮮に渡った人、1人は看守でした。カメラは回さず、グループインタビューのような形で話を聞いたのが30人ほどです。

 ルポルタージュや実写の映画も考えましたが、彼らの話をそのまま映像にするとホラーにしかならない。観る方が耐えられない作品になってしまいます。アニメなら表現を和らげ、感情移入できる作品にできると思いました。

©︎iStock.com

――作品には日本人拉致被害者と思われる女性が出てきます。

清水 1990年代半ばにヨドク収容所にいた脱北者がこんな話を聞いていました。ヨドクで飯炊きをしていたある女性は、日本から連れてこられた拉致被害者で、工作員の日本語教育を命じられたが「祖国に迷惑をかけたくない」と拒んだため、ヨドクに入れられた、と言うのです。この拉致被害者や帰還事業で北朝鮮に行った日本人妻は、れっきとした日本人ですよね。彼女たちのことを見捨てて良いのか。あのシーンには、そんな思いを込めました。