フランス東部の町アヌシーで開かれる世界最大級のアニメーション映画祭「アヌシー国際アニメーション映画祭」で、北朝鮮を題材にした日本の新作3Dアニメ映画『TRUE NORTH(トゥルーノース=真実の北朝鮮)』が、長編コントルシャン部門にノミネートされた。手がけたのは、横浜生まれで在日4世の清水ハン栄治監督だ。

清水ハン栄治監督(本人提供)

過酷な状況を生きる兄妹の物語

 かつて宮崎駿監督や高畑勲監督が最高賞に選ばれ、近年では『この世界の片隅に』(2017年)の片渕須直監督が審査員賞を受賞した。例年、12万人が来場する大イベントだが今年は新型コロナウイルスの影響で、オンライン開催になった。

 作品の主人公は金正日体制下の北朝鮮で両親と暮らす幼い兄妹、ヨハンとミヒ。1950年代から1984年まで続いた「在日朝鮮人の帰還事業」で北朝鮮に渡った家族だが、父親が政治犯の疑いで逮捕され、母子は強制収容所に入れられる。極寒の収容所での暮らしは凄惨を極めるが、二人は極限の状態の中で揺れながら、人間性を育んでいく。そして最後に待つ驚きの結末――。

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 過酷な状況を生きる兄妹を描く、という意味では野坂昭如原作、高畑勲監督のアニメ映画『火垂るの墓』、限界状況における人間の姿という意味では心理学者の目でアウシュビッツを描いたヴィクトール・フランクルの『夜と霧』を思い起こさせる。

北朝鮮の強制収容所は「現在進行形」

 94分の作品を見終わって改めて感じたのは、北朝鮮の強制収容所はアウシュビッツと同じ人間性に対する犯罪だが、「過去の出来事」ではなく今も20万人~30万人が収容されている「現在進行形の問題」であり、その中には「地上の楽園」という宣伝文句に騙されて北朝鮮に渡った数多くの元在日朝鮮人とその家族がいるという重い事実だ。

映画『TRUE NORTH』予告編

 監督の清水は1970年横浜生まれで、2年半前に亡くなった父は在日コリアン1世、母は3世である。

 米国の大学でMBA(経営学修士)を取り、外資系IT大手やリクルートでバリバリやっていたが「オープンカーに乗って鼻の穴を膨らませても、ちっとも幸せじゃない」と悟って35歳で独立。アメリカの友人であるロコ・ベリッチ監督に誘われてドキュメンタリー映画『happy ―しあわせを探すあなたへ』(2012年)をプロデュースするなど映像、出版、教育事業に携わるようになった。

 その清水がなぜ、北朝鮮をテーマにしたアニメ映画を制作したのか。