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もっと伏見の「活躍」を評価し、他の選手をも刺激して欲しい

 では、今のオリックスのベンチから、新型コロナウイルス蔓延の困難な状況下で、その活躍を特筆すべき選手を一人選ぶならそれは誰か。筆者はここで文句なしに伏見寅威を推したいと思う。今年に入って突如として打撃開眼したかに見える若月健矢の控え捕手として、また時に貴重な「右の代打の切り札」として、勝負強い伏見の存在の大きさは、今更指摘する必要もないだろう。しかしここで筆者が強調したいのはそれ以上に、彼の「ベンチ」での活躍である。時にメディアで「元気のない球団」と言う評価の下されるオリックスにおいて、伏見は、現在故障で二軍落ちしている福田と並んで数少ない「ベンチから声の出せる」選手だからである。

 実際、テレビの中継音声に少し注意深く耳を傾ければわかるように、観客からの声援が制限された今の球場で、伏見の声はスタンドじゅうに響き渡っている。そして、彼の出している声の重要性は、我々自身を選手たちの立場に置き換えてみればすぐにわかる。永らくBクラスに低迷するチームで、このチームの多くの若手や中堅選手はなかなか実績を積めず、確固たる自信を得られず苦しんでいる。だからこそ実際、オリックスの選手は、ベンチから頻繁に送られる「一死一塁で送りバント」のサインに対してすら、高校野球の9回裏1死満塁でスクイズバントを命じられた高校生の様に、泳いだ目をしてがちがちになっている。そんな時、「さあさあ、ここで一挙に決めちゃいましょう!」というベンチからの伏見の大きな明るい声が、彼らの背中をどれだけ押しているかは想像に難くない。

 とはいえ残念なのは、大人しい選手の多いオリックスにおいて、この「伏見の声」が余りに突出している事である。故に時に、伏見自身がベンチの奥に下がり「右の代打の切り札」としての準備をはじめると、テレビの音声を通じてすら、ベンチからの声が急に小さくなったことがわかる。そして結果として、テレビを観ているファンにすら、「ベンチが静かになったから、もうすぐ伏見が代打に出るに違いない」という予測が立ってしまうという、些か異常な事態すら出現する。そう、オリックスベンチには伏見以外にも伏見の様な選手が必要であり、更には伏見自身の為にも彼を応援してくれる選手が必要なのだ。だからこそ、首脳陣もフロントももっと伏見の「活躍」を評価し、他の選手をも刺激して欲しい。

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T-岡田を「Tポーズ」で出迎える伏見寅威

 わかって欲しいのは、そんな選手の存在は限られたチケットを買って、試合を見ているファンにとってもとても重要だと言う事だ。大きな声を上げられないスタンドから、相手ベンチの声しか聞こえない試合を見るのはとてももどかしい。だからこそ、わがままかもしれないけど、大きな声を自由に上げられるベンチだけからでも、選手たちにはもっと大きな声を上げて、マウンドやネクストバッターズサークルに立つ選手を応援して欲しい。そしてベンチから大きな声が上がる時、ファンもまた、心の底では大きな声で叫んでいることを思い出して欲しいと思う。

 さあ、今日もまもなく試合開始。この夕方もビールを片手に、テレビの前で、伏見と一緒に、オリックスと伏見を応援しようではありませんか。そう、もちろん大きな声を出して元気よく。

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