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「じゃあ負けてよ。300円にならないの?」

 18年3月の豊洲市場のPRイベント「豊洲市場魅力発信フェスタ」でのことだ。

 築地市場事業者による飲食ブースを訪れた小池は、380円の「さばサンド」に目をつけた。小池は400円をスタッフに手渡す。

「冷めてるんですけど」

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 スタッフが申し訳なさそうに言うと、小池は、

「じゃあ負けてよ。300円にならないの?」

 と応じ、実際300円にしてもらったという。目撃した関係者は、知事らしからぬケチぶりと同時に、移転問題で振り回した業者に対する振る舞いとあって呆れ果てた。ただこのエピソードは、小池の「関西人らしさ」では片付けられぬ、苦難の人生を垣間見せたように思う。

 小池は父の会社の倒産によって自宅が差し押さえられるという辛酸を舐めている。小池の「唯一の自伝」と銘打たれる大下英治著『挑戦』には、カイロ大留学時代の苦労話がこれでもかと登場する。入学金のみ父の世話になり、後は観光ガイドなどで食いつないだ。食費を切り詰め、ネギ、パン、はちみつ、白チーズしか食べず、栄養失調寸前までいった……。

1992年日本新党から参院選に出馬し初当選。細川護熙代表と喜びの握手をする小池氏 ©共同通信社

「小池さんにご馳走してもらったことがない」

 国会議員になっても服は自分でデザイン。今でも“接待”で使う店は、瓶ビールを各自が取るような狭い焼鳥屋で、同行者を驚かせる。

「小池さんにご馳走してもらったことがない」

 本書の取材で会った人は、必ずといっていいほどそう語った。

 クールビズや「MOTTAINAI」、風呂敷の推奨など、カネのかからないものが小池の重点政策となるのは、それと無縁ではないだろう。そういえば、電通を使ったPRよりも、記者会見やメディア受けするパフォーマンスなど、安上がりな戦略の方が小池は生き生きとする。

 孤高を持してきた小池にとって、知事の立場はうってつけだっただろう。というのも総理大臣の場合、議員内閣制で大臣は国会議員を任命しなければならず、それは信頼関係の積み重ねや審美眼が問われる。だが知事の周りはすべて官僚だから、その必要はない。

 しかし、権力に憑かれた女は、物足りなさを感じたのではないか。

 都知事という権力をもぎ取ってもなお、憲政史上最長となった安倍晋三内閣に対峙していく小池百合子の姿を、本の最終章では描いていく。

(【続き】「国政に転身するの?」小池百合子知事が答えをはぐらかす本心とは――週刊文春記者は見た を読む)