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「走れ!タカハシ」を読みながら“野手で登板”巨人・増田大輝に思いを馳せる

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/08/12

 いやマジで、久々にビビった、というか心底ビックリした。まさか甲子園のマウンドに増田大輝が立つなんて……ってそりゃビビったし、確かにあの夜、巨人仲間とのメールやLINEも非常に盛り上がった。

 広岡達朗がブチ切れるのはデフォルトとして、その後の堀内恒夫、江夏豊、ハリーやトドメの春団治・川藤や上原の下克上ツイートなど、巨人OBや昭和レジェンド達を巻き込んだイデオロギー闘争と、常に物議を醸し出しまくる采配と「巨人だけは~」みたいなオールド・スクールな考え方に「知るか!こちとら日シリ4連敗じゃい!」と、ガチで立ち向かう原辰徳という人物はホント面白えなと、いい酒のツマミになったんだですが(ちなみに俺は断然、川口和久派です!)、それは一旦置いといて。

 そう、俺がマジにビビってたじろいだ(©︎高田総統)のは、前回登板時の対戦相手が元・広島東洋カープのスーパースター、高橋慶彦選手の御息女・高橋雛子さんだったからである!!

 何故なら、前回の有観客観戦記の為に新神戸に向かっていた新幹線の中で読んでいたのは、小説家・村上龍の短編集『走れ!タカハシ』だったのだ。

『走れ!タカハシ』 ©伊賀大介

フィクション野球小説の金字塔

「出たぜシンクロニシティ……」と思いながら高橋さんの原稿を読むと、これがまた最高すぎて、仲間が打った時のウィーラーみたいにニコニコになっちまいました。

 雛子さんの、礼儀正しい&チャーミングな文章から伺えるヨシヒコ(愛を込めて敬称略!!)のハートウォーミング子煩悩エピソード(見習いたいと思います)の数々とツーショット写真の強度!!

 ラストの所なんて娘持ちとしては涙を禁じ得ない展開で、スマホ画面が若干滲んだのも又事実。

 中学生の時に初めて読んでから確実に半年に1回は読み返してるので、もう5、60回は読んだはずのこの『走れ!タカハシ』、まだ未読の方の為に一応軽く説明すると、80年代中盤に全盛期を迎えた村上龍が『コインロッカー・ベイビーズ』と『愛と幻想のファシズム』という、90年代半ばまでの中高生をアジりまくったガチな超大作2作の間に、軽快かつポップな筆致でスラッと書いた野球短編集であります。

 コレは皆そうだと思うんですが、作家がキャリアの中盤に、リラックスしてる感じで書いたり撮ったり、俺はこういうのが好きなんだ!みたいな情熱を傾けてるテンションの作品って、観ると嬉しくなる様な物が多い気がする。例えば、28日間で撮り終えた黒澤明『どですかでん』とか、趣味を全開にして子供を子供扱いしない藤子Fの短編集とか、ほぼ自主映画なジム・ジャームッシュ『コーヒー&シガレッツ』とか。

 勿論、広島カープのスター遊撃手として高橋慶彦が本人として出てくるが、その存在はいわゆる一つのマクガフィン。

 それぞれの主役は、やる気の無い高校生、17歳の男娼、映像ブローカー、小説家、トラック運転手、交通整理の老人などなど多種多様で、この人間たちの運命が、高橋慶彦の走る様やスチールを決める姿を見て、ちょっとずつ変わって行くという話なのだが、巨人ファンをやりつつ小6で村上龍に出会い、今まで全ての著書を読んだ俺からしても、ライト龍(村上龍が左手で書いた様な作品を称してこう呼んでいる)の中でも『長崎オランダ村』に並ぶ傑作であり、人間と野球(またはベース・ボール)という関係性について書かれた、フィクション野球小説としても「ユニヴァーサル野球協会」「守備の極意」と並ぶ金字塔だと思っています。

 刊行は1986年(文庫化は89年。吉本ばななの解説と文体も80s感あってグッとくる)なだけあって、80年代セ・リーグのムードも味わえるし、「炭焼きといった風情のカケハタ」「ヤシキは、あれは、要するに運動会の選手なんだよ」というシビれるパンチラインも多数飛び出します(大洋ファンの方すんません!)。