筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者で、京都府に住む患者女性(当時51)に依頼され殺害したとして、大久保愉一容疑者(42)と山本直樹容疑者(43)の医師2人が嘱託殺人容疑で逮捕された事件。患者女性からは山本容疑者の口座に100万円以上が振り込まれていたことがわかっている。この衝撃的な事件によって、安楽死をめぐる議論が活発化している。
「議論に一石を投じることになるのなら」と取材に応じてくれた女性がいる。彼女は「くらんけ」というユーザーネームでTwitterを利用し、これまで安楽死についての情報発信をしてきた。くらんけさん自身も神経系の難病を幼少期に患い、今後、スイスの安楽死団体「ライフサークル」で安楽死を受けることが決まっているという。
くらんけさんは患者女性と大久保容疑者、両者とSNS上で頻繁に交流していた。そして、患者女性が亡くなる前後、くらんけさんはこの当事者2人と、事件に関連するようなやりとりを交わしていたというのだ――。
患者女性に「安楽死を受けるのは難しい」と伝えた
くらんけさんが患者女性と知り合ったのは2019年2月頃。その後、Twitter上でのやりとりが続いたという。
「私は安楽死に関する情報をよくツイートしていたので、患者女性の方から《いろいろ教えてください》ということでフォローされ、よく相談に乗っていました。ただ、SNS上だけの関係だったので、事件が起きるまでは実名は知らず、〇〇さん(患者女性のTwitterユーザーネーム)と呼んでいました」
患者女性は2018年5月に「スイスで安楽死を受ける」ことを目標にブログを開設。同時期に、Twitterも開設した。患者女性は、最初にこうツイートしている。
患者女性《今一番の課題は付添い人が自殺幇助に問われるという噂をクリアにすること。あってはならないと思うけど》(2018年5月3日)
くらんけさんが語る。
「患者女性は《今すぐ死にたい》と頻繁にツイートしていました。スイスでは『回復の見込みがない』『耐えがたい苦痛がある』『代替治療がない』『本人の明確な意思がある』などの要件を満たせば外国人でも合法的に安楽死ができるのですが、1つ問題があった。安楽死するためには自分で自分に致死薬を投与する必要があるんです」
患者女性が患っていたALSは、身体感覚、視力や聴力、内臓機能、意識などはすべてそのままに、全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病だ。病状が進行すると、歩けなくなり、水や食べ物を飲み込むことができず、呼吸も十分にできなくなってしまう。
「当時、患者女性はすでに嚥下ができない状態でした。安楽死が承認される要件は満たしているように思いましたが、自分で薬を投与することが難しいのではないか、と伝えました。自分ひとりで移動することも難しいので、スイスまで同行してくれる付添人が必要なことも問題でした。患者女性がツイートしているように、付添人は自殺ほう助で逮捕されてしまう可能性もあるのです」(同前)