新宿歌舞伎町の通称“ヤクザマンション”に事務所、そして大阪府西成に居を構え、東西のヤクザと向き合ってきたからこそ書ける「暴力団の実像」とは――暴力団との関係が色濃い西成という街について、著作『潜入ルポ ヤクザの修羅場』(文春新書)から一部を抜粋する。

◇◇◇

釜ヶ崎の危険エリア

 西成のもう一つのエリア――飛田新地の西側にある通称・釜ヶ崎(あいりん地区)の取材は、ひたすら足を運んだ。ここでは違法・合法問わず、あらゆるものが販売されていた。週末の泥棒市程度なら、観光ついでに出かけても、そう問題は起きないだろう。ただしこのあたりも写真は御法度である。すぐあちこちから怒鳴られる。かなりの確率でトラブルになる。

ADVERTISEMENT

©iStock.com

 JR新今宮駅近くのハローワークあいりん労働(通称・センター)からちょっと入った場所では、向精神薬や睡眠薬、覚せい剤や麻薬などがおおっぴらに売買されていた。朝早くの時間は、煙草が1割引で車上販売されていて、たぶんこれは盗品だろう。ハルシオン(睡眠導入剤)程度ならおっちゃんが路上でやっているフリーマーケットにも並ぶ。1錠100円が相場である。

 違法の度合いが増すほど、売買の主流は不法占拠の屋台に移る。こうしたエリアに踏み込むときは、それなりの覚悟をして行くべきだ。取材と分かれば怒鳴られるだけではすまない。観光気分で出かけたら危ない。

暴力団の見張りによって守られる場所

 密売所や公営ギャンブルのノミ屋(ハコ屋)、偽ブランド品の販売所などは、もっとも厳しい警戒が行われている。グーグルのストリートビューで我慢しておくのが賢明だ。ストリートビューにも映っているが、道路の真ん中にパイプ椅子を置き、侵入者に目を光らせているのがシキ張り――暴力団たちの見張り役である。近くになんらかの違法なエリアがあると考えて差し支えない。シキ張りには原付バイクに乗った部隊もいて、明らかなよそ者はすぐ「なにしてん?」と質問される。

 一番危ないのはハコ屋の並ぶ一角で、カメラが見つかったら、取り上げられるのはもちろん、身の安全は保証できない。センター付近ならカメラを隠し、ノーファインダーで撮影していても見逃されるが、この一帯では厳重なシキ張りがにらみをきかせている。警察官が同行してくれない限り無理だろう。やってみれば分かる。本気ですすめない。

 ハコ屋の絶頂期は、ちょうど私が飛田に部屋を借りていた2000年前半で、当時は30店あまりのハコ屋があった。景気の悪化と3連単の登場によって、次第に客足が減り、いまは3分の1程度になっている。3連単は配当が大きいので、たった100円張られてもかなりの損失になるのだ。ハコ屋に来る客はみな万馬券狙いのため、かなりの資金力がないと、公営ギャンブル通りのオッズでは経営が成り立たなくなった。