新宿歌舞伎町の通称“ヤクザマンション”に事務所、そして大阪府西成に居を構え、東西のヤクザと向き合ってきたからこそ書ける「暴力団の実像」とは――暴力団との関係が色濃い西成という街について、著作『潜入ルポ ヤクザの修羅場』(文春新書)から一部を抜粋する。
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“ちょんの間”に上がる
歌舞伎町以上に暴力団密度が濃い街であっても、意外なことに、飛田新地には暴力団の関与がほとんどなかった。本来、売春と暴力団は密接な関係で、広域団体のトップが「(売春婦の)彼女たちを守っているのは我々なんだ」と熱弁するほど表裏一体の関係にある。これだけの暴力団過密地帯なのに、飛田を直接シノギにしている暴力団がいない。あちこち訊いてみたが、それらしい事実は見当たらない。みかじめ料も一切払っていないようだ。腑に落ちない話だ。
違法行為、または違法行為ギリギリの性風俗産業に、暴力団が寄生しているのは全国的にどこにでもある図式である。警察に駆け込むことのできない脛に傷持つ立場の人間に寄生するのは暴力社会の鉄則なのだ。売春防止法以前も売春暴力団は存在したが、いまや暴力団の主要なシノギになっており、ソープランドはもちろん、ヘルスやピンサロなども、まず間違いなく暴力団になにがしかの金を払っている。違法行為にもかかわらず、独特な論理を使って堂々と管理売春を行なうシステムは、任侠道を建前としながら、暴力を糧に違法な商売を行う暴力団と似ている。
飛田の売春形態は“ちょんの間”と呼ばれる。時間が短いことが由来である。何度か経験のために上がった。
古めかしい階段を上り、部屋に通されると、そこには布団のないコタツと座布団があって、淫靡な声をかき消すため、室内にJポップがかなりの音量で流れていた。飲み物、菓子は自由に食べられる。少々の飾りはあっても殺風景で、きらびやかな女性の服装とかなりのミスマッチだ。とはいえ、女性はすぐに全裸となり、客に「洋服を脱いで下さい」と、うながす。ゆっくりと辺りを観察する時間的余裕はないだろう。
飛田新地で大っぴらに売春が認められる理由
店の敷居をまたいでから時計の針が動き出す。時間内にすべてを終わらせなければならない。風呂やシャワーの手間がないとはいえ、サービスは本番行為――セックスそのものだから、もたもたしている時間はない。避妊具の装着は必須で、身体にタッチするのを嫌がる女性は少ないが、キスやフェラチオは基本的にない。料金は時間によって異なり、入口に料金表を張り出している店もあるが、20~30分のプレイで、高いところで2万円、安いところで1万4000~1万5000円程度である。
どうしてここまでおおっぴらな売春が認められているかといえば、かつての遊郭はあくまで「料亭」で、売春婦たちは「女給」だからである。