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本音と建前によって運営される日本の現実

「客に料理を運ぶ女給たちが、個人的な交渉によってサービスをしている」

 というのがここ飛田の建前――売春防止法からの逃げ口上なのだ。界隈を歩くと、「ホステスさん募集」「お運びさん募集」といった張り紙をよくみかける。もちろん売春婦の募集に他ならない。ここまでおおっぴらなのだから、公娼制度を復活させても同じだと思うが、あくまで管理売春が違法なので、表向き、セックスの提供という特殊なサービスは、どこまでも公的には伏せられる。飛田新地は本音と建前によって運営される日本の現実を見事に象徴している。

 1958年4月に施行された売春防止法のおよそ2ヶ月前、「飛田新地料理組合」が発足して以降、この論理は現在まで変わらぬ飛田のダブルスタンダードとなった。建前上、特殊浴場であり、背中を流す係の女性店員が、店のあずかり知らぬところで勝手に自由恋愛をしていると主張するソープランドと同じだ。風俗雑誌にもほとんど登場しないため、飛田新地の実態はほとんど知られていない。

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©iStock.com

「裏では(ヤクザと)関わってるとこがあるかもしれんが、そんなことをすればすぐにガサ(立ち入り捜査)がはいる。ヤクザの商売としては、わりにあわん」。地元暴力団幹部の証言には、リアリティがあったが、にわかには信じられない。

飛田のケツ持ち

 飛田の真実がみえてきたのは、あるとき、商店街で喧嘩をふっかけられたことが発端となった。

 その日の午後、自転車に乗って食料の買い出しに出かけると、商店街と北門通りが交差する付近で工事をやっていた。通行人を整理する係員の横で、おばちゃんとガタイのいい40代後半ぐらいの男が口喧嘩をしていた。係員がそれを制止すると、男ともみ合いになった。それを止めようとしたところ、いきなり顔を殴られ、自転車ごと倒されたのだ。

 子供の頃、殴り合いの喧嘩などしたこともないのに、成人してから3度も顔面を殴られるなんて、想像したこともなかった。衆人環視の中で見栄があったのだろう、反射的に体が反応し、なんとか相手を押さえ込んだ。