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 通常なら人だかりになってもよさそうなのに、通行人は我関せずで、押さえ込んだはいいが、どうしていいものか分からない。手を離せば再び乱闘になるだろう。そのとき、私の携帯電話がなった。着メロは『仁義なき戦い』のテーマ――ということは暴力団からの電話である。相手を押さえ込んだまま、なんとか電話に出た。その隙を見て、男は私の顔面に向かって何度も唾を吐きかけた。

「なにしてんの?」

「喧嘩してます。いや、いまは唾を吐きかけられてます」

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 相手は地元の暴力団組長だった。

「えっ?」

「いきなり殴られまして、成り行き上こうなって」

「どこ? すぐ行くわ」

弱腰でいると誰からも相手にされない街

 1分ほどで暴力団が駆けつけ、誰かが通報したのだろう、同時に警察官もやってきた。警察官は組長と顔見知りらしく、係員やおばちゃんが説明してくれたこともあって、男が屈強な警官に連行され、私はおとがめなしだった。きっかけを作ったおばちゃんは、飛田の経営者だった。これをきっかけに取材ルートが生まれた。まさに怪我の功名である。

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 夜になってラーメン屋に行くと、「今日、喧嘩したやろ?」と店主にからかわれた。

「(喧嘩を)やってよかったやん。ああいうとき、情けない姿を見せたらこのへんじゃすぐなめられる。みんな見てるからね。噂になる。そんな弱腰じゃ、誰からも相手にされんわ」

 店主はカウンターから包丁を取り出し、「わしは店でなんかあったらすぐ刺すって決めてんねん」と自慢げだった。この街では明らかに暴力に対する感覚が異質なのだと理解した。

警察と手を組む飛田新地

 飛田のことを調べていくと、この場所のケツ持ち――いわゆる用心棒が警察であると分かってきた。全国のちょんの間が軒並み摘発された中、飛田新地だけが黙認されているのはそのためだろう。許可書申請の際、警察で面談が行われ、「売春はいけません」と言われるのは、双方了解の、破られるためのお約束だが、暴力団との関わりだけは、何度も厳重に注意を受けるという。その他、警察から組合への指導は覚せい剤、未成年の雇用禁止、スカウトからの斡旋禁止などがある。

 暴力団に話を通す必要もないため、新規店のオープンは資金さえあれば簡単で、ソープランドやヘルスの許可店のように、許可書というプラチナペーパーを探し回る必要もない。