違法賭博の現場
一度だけ、このハコ屋に入ったことがある。地元の暴力団たちから「西成に馴染んできたねぇ」とお世辞を言われ、調子に乗ってその勢いのまま、よれよれのジャージとサンダルを履いて出かけた。内部はまるでアミューズメントパークで、ここが違法な空間であるとは思えないほど綺麗で清潔だった。カウンターには『売り子』と呼ばれる女性がいて、チケットを販売したり、払い戻しをしていた。たしか制服……のようなコスチュームを着ていたように記憶している。
全国の公営賭博を扱うため、十数台のテレビが置いてあって、その迫力に圧倒された。メシや飲み物もタダだったが、胸がドキドキしてしまい、3レースだけ張って帰った。結果は負けで、これだけの施設が黙認されていることに驚いた。
ハコ屋の非常口を爆破
実際、摘発されたら逃げようがない。
2010年10月6日、一帯で最大規模のハコ屋が摘発されたとき、店側はすぐに頑丈な鉄の扉を閉め切ってしまい、一切応答しなかった。警察はかねてから用意していた捜査一課の特殊班「MAAT」を投入し、「ここを開けないのなら5分後にドアを爆破する」と宣言、非常口を爆破している。挙げられたのは、警察庁長官が「壊滅作戦」を直々に指示するなど、徹底的な取り締まりを受けている山口組の主流派弘道会が経営している店だ。店の従業員や客など合計100名以上の人間が西成署に連行され、現金約500万円が押収されたが、すぐ近くのハコ屋の関係者がいて、「なんでお前がここにおるんや」とどやしつけられたらしい。
暴力団がこうした取材に協力してくれることはまずない。
「そこは触らんほうがええ」
と、やんわり、しかし、はっきり拒絶される。警察も苦い顔をする。違法なシノギはかなり正確に把握しているようで、現状はあくまで黙認なのだ。マスコミにそれを書かれたら、建前上、検挙しなくてはならなくなる。敵味方の双方から嫌がられる。
西成署近くの路上では、ときどき公道で堂々と路上賭博をやっているが、これが最もピリピリしている。何度も写真を撮ろうと努力したが、断念せざるを得なかった。当然カメラはバッグなどの一部を切り取り、そこからレンズだけを出して盗撮する。しかし、囲まれて荷物を調べられたら終わりだ。