いつの頃からだろうか、食材の産地を気にするようになったのは。相次ぐ食品関連企業の不祥事により、食の安全神話が崩れたことも大きい。いまや、より自然に近い状態の肉を、と大衆居酒屋等にもジビエのメニューが並び、駆除の対象となった鹿や猪の肉を有効活用しようという動きも盛んだ。
そんな時代の要請もあってか、狩猟を取り入れたマンガが目立つ。
女性主人公なら狩猟を語りやすい
飛行機事故にあった女子高生4人組が無人島でサバイバル生活をおくる『ソウナンですか?』は、2019年夏にアニメ化。彼女たちは罠を仕掛けて鳥獣を獲り、生活用品まで作ってしまう。原作を手掛けるのは、岡山で鳥獣を獲って暮らす猟師兼漫画家の岡本健太郎。17年には70年代に描かれた矢口高雄の名作『マタギ』の完全版が復刻され、発売早々に連続で重版がかかった。
地方で鳥獣被害が深刻化していることも狩猟への関心を高める一因になっている。農林水産省が発表した野生鳥獣による農作物の被害額は、16、17年度共に約170億円超え。18年度は少し減ったが約164億円に及び、各地で保護用の電気柵設置に莫大な手間と費用をかけているものの、いまだ根本的な解決には至っていない。
とはいえ、狩猟を巡る話は非常に繊細だ。野生動物保護の観点を訴える都心部と被害にあえぐ地方との議論が平行線に終わることも多く、猟銃に対する拒否感も根強い。そんな今だからこそ読みたいのが女性主人公の狩猟マンガだ。声高に被害を訴えるでなく、感情的になりすぎることもない。そのバランスが、女性を中心に据えることで保たれているのだ。
例えば、農家兼漫画家の緑川のぶひろが描く『罠ガール』には、わな猟免許を持つ女子高生とその友人が、畑を守るために奮闘する姿が描かれる。彼女たちの懸命さや明るさが、深刻な被害を暗くなりすぎずに伝えていることで、カルチャーメディアのみならず農業・狩猟従事者からも関心を集めている。
『クマ撃ちの女』著者に聞く
人間と接点の多い鳥獣のなかでもひと際存在感を示すのは熊だ。特にここ数年は人家のあるエリアでの目撃例が増えている。都心に近い神奈川県でも17年には警察に届けがあっただけで64件の目撃例があり、19年、札幌では市街地に熊が出没。国道を横切るニュースがお茶の間に流れた。
そんななか、19年1月の連載開始より話題になっているのが『クマ撃ちの女』だ。主人公の小坂チアキが狙うは日本最強生物のエゾヒグマ。とはいえ、多くの論点を抱える狩猟という題材に、本作が初連載だという著者の安島薮太さんが挑んだのはなぜだろう?