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動物保護を訴える都心部と被害にあえぐ地方……「女性の狩猟マンガ」が注目される理由

2020/08/13
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「僕は愛知のド田舎出身。おじいちゃんが鳥撃ちで、弟が農家なんですね。ですから、子供のころから動物との距離感が都会の人とは違うなというのがありました。連載前に読み切りで動物商の話を描いたこともあって、編集者から狩猟を題材にしては? という提案があったんです。そこからターゲットはエゾヒグマ! だったらクマ撃ちの話だ! みたいに絞りこんでいきました。

 正直に言うと、その頃の狩猟に関する知識は本を1、2冊読んだ程度。連載の話が本格化してから、取材先を広げていった感じです」

『クマ撃ちの女』1巻176ページより ⓒ安島薮太/新潮社

 とはいえ、自然界と人間界を切り離すことなく同列に考える思考は最初からあった。それを軸にジビエを提供する飲食店や狩猟従事者、銃砲店など、さまざまな立場の人の話を聞くことで、ある気付きがあったという。

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「皆さん、すごく協力的で、その協力がなければこの作品は生まれていなかったというぐらい。逆にいうと、個々の立場から言いたいことがたくさんあるのに、発信する場があまりなかったということなんでしょうね。僕もクマ撃ちの正当性みたいなことは描いていないし、描くつもりもない。ただ、その場に居る人の生の感覚を伝えることが出来れば、闇雲に批判する人が少しでも減るのでは? という思いはあります」

圧倒的存在は時に甘美でもある

 本作は狩りに同行するルポライター・伊藤の視点で描かれる。舗装されていない山道でクルマに酔い、獲物を追う山行きで小枝を踏んで音を出してしまう、などのリアルな描写には取材時に得た実感が活かされている。また、第17話(20年1月9日発売の単行本2巻に収録)にはチアキがエゾヒグマに固執する理由が描かれる。この回はweb「くらげバンチ」発表直後に反響を呼び、アクセス数も伸びた。

「17話が盛り上がったのは、熊の実態があまり知られていないからだと思うんですよね。こちらは『そりゃ、そうなるよね』と思いながら描いたので、意外だった部分もあります。実は、熊って人間として考えた方が行動が読めるらしいんですよ。写真を撮ろうと無闇に熊に近づく人の話も聞きますが、本当に止めた方がいい。熊はバカにされたと感じるでしょうし、そうすると襲ってきます。僕も知れば知るほど怖くて、取材時の携行品はかなり気を使っています」

『クマ撃ちの女』1巻15ページより ⓒ安島薮太/新潮社

 生命を揺るがす外敵に出会う恐怖が遠のいて久しい。そんな時代に熊の生態に惹きつけられるのは、彼らが根源的な恐怖を思い起こさせてくれるからだろう。狩猟マンガには、そういった感覚を呼び起こし、野生動物の知られざる一面を知ることができる面白さもある。

 また、これらの作品にたびたび登場するのは、獲った命を美味しくいただく調理&食事のシーンだ。食べ物はスーパーや専門店で買うのが当たり前――狩猟マンガには、頭にこびりついたそんな常識をさらりと剝がしてくれる作用もある。