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特集観る将棋、読む将棋

2020/08/01

フロアに響き渡る「オーレ、オレオレオレ」の歌声

 ポーカーの大会は、どんなに大きな名誉がかかった勝負でも、テーブルから数メートルのところに張られたロープの外からならいくらでも観戦することは可能だ。友人が決勝に残ると、仲間が大挙して応援に来ることもあり、特にブラジル人がポットを獲得(麻雀でのあがり、のようなものを想像して欲しい)すると、体育館よりも広いフロアに響き渡るような「オーレ、オレオレオレ」の歌声が響き渡る。歌がしばらく聞こえなくなると、「あ、あのブラジル人飛んだ(敗退のこと)んだね」と分かる。

 勝負を降りた後、次のカードが配られるまでの間は、参加者が立ち上がって観客席の友人と話すことも可能だ。賛否両論はあるものの、30分遅れのディレイ放送が行われている試合の場合は、友人に放送を見てもらうことを依頼して、30分前に他のプレーヤーがどのようなハンドをどうプレイしていたかを知ることも現状可能なのだ。

 もちろん大きな勝負になって長考(と言っても、3分はかなりの長考に入る)している時はそれなりに緊張感があるが、音を一切立ててはいけないと感じさせるような将棋のタイトル戦の緊張感とは全く別物である。

人通りが少ないこともあり、雨の将棋会館は静寂に包まれていた ©文藝春秋

今日は何本バナナを食べるのか

 時刻は13時50分。まず豊島竜王・名人が入室。その後永瀬叡王も入室。

 豊島がおもむろに立って廊下に行き、エアコンの調節を行う。筆者の体感的に、設定温度を上げたのだと思われる。特別対局室は、両対局者が心地よく対局できるように天井のエアコンが2つあり、それぞれが対局者に風が行くようになっているのだ。

本局に用意されたバナナは7本だった ©文藝春秋

 永瀬の席には、大量のペットボトルや缶コーヒーの他に、バナナがたくさん置かれている。永瀬は、常にバナナを食べることで話題になっており、「バナナガセ」と呼ばれることもある。自身が大将として藤井棋聖、増田康宏六段とチームを組んだAbemaTVトーナメントでも、チーム名は「バナナ」だ。このバナナ、ドワンゴが用意したもので、1本300円もするとのこと。終局後に余ったバナナをいただいたが、1本で通常のバナナ2本分はありそうな大きさでありながらとても甘く、脳がよく働く。さすが1本300円の高級バナナというものだった。

 筆者が両対局者の入室前に数えたところ、7本あった。ニコニコ生放送の視聴者も、今日は何本食べるのかと始まる前から気になっていた。

 定刻の14時になり、永瀬の先手で対局開始。開始6分でサクサクと11手進み、11手目に比較的珍しい手を指した永瀬が退室。

永瀬叡王の先手番で始まった ©文藝春秋

「お色直し」「着替え」のニコ生コメントがたくさん並ぶ。5分後、対局室に戻ってきた永瀬はスーツ姿に着替えていた。

 今シリーズでは、永瀬は初戦を最後まで和服を着て戦って負け、2局目以降は途中でスーツに着替えて対局し、3局指してまだ負けていない。ゲンを担いだということではないだろうが、慣れたスーツで対局することで、少しでも盤外で集中力が落ちるのを防ぎたいということではないか。