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「完全なブラック企業です」販売員は調達自在な資材扱い

 本書を読んで意表を衝かれる想いがしたのは、年間売り上げ8729億円、純利益528億円、従業員5万2839人。世界に冠たる大企業が、つねにアルバイターを募集し続けるほど、人手不足が常態化している現状である。販売をささえているのは、主婦と学生、短時間勤務のアルバイターたち。50過ぎの著者でも即決採用、翌日出勤で迎え入れられるほどに、労働者が払底している。

 ユニクロは世界にむけて店舗を展開しているのだが、あたかも広大無辺の戦場をとりとめもない傭兵でカバーしていて、さほどの不安感をもっていない。それが流通業界に不案内なわたしをまず驚嘆させた。

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 著者の最初の就職先は、千葉県の幕張新都心店だった。その店は60人の従業員がおり、その構成は、2ヶ月間だけの短期アルバイト、半年ごとに契約を更新する長期アルバイト(月間100時間未満の労働)、それに準社員(月間100時間以上の労働)の三階層。「猫の手も借りたい」ほどの暮れなどの繁忙期には、販売員になりそうな客を物色し、勧誘する、というのも驚きだ。将来、社員化する、という約束で採用する「地域正社員」というものもあるが、採用基準はきびしいようだ。

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「先日UNIQLOの記事が、ニュースになっていましたが、私の娘は息子と2人の母子家庭です。UNIQLOは子育て応援と言う事で、地域正社員希望で●●市の●●店に入社しましたが、1年以上が過ぎてもパートで、閑散期は週1~2日しかシフトをいれてくれませんし、当日ラインが来て出勤してと、日雇い労働者と同じです。完全なブラック企業です」

 とのメールが編集部宛に送られてきたという。客が減れば出勤日を減らし、客がふえれば出勤を強制する。販売員は調達自在な資材扱いでしかない。

人件費は削れるだけ削り、人手が足りなくなると残業を強制

 いま、非正規労働者は総労働人口の38パーセント強に達する。が、非正規率はユニクロの方が、はるかに高水準である。日本有数の巨大アパレル企業が、非正規の殿堂であることが、日本人の生活不安定化を象徴している。

 東京・新宿東口。2012年9月に開店した、1階から3階までがユニクロ、地下3階から6階までがビックカメラ。開店日の朝、入り口に4000人が詰めかけたというこの「ビックロ」館のユニクロは、外国人労働者が「5割」を占める。外国人のアルバイトが多いのは、時給1000円では、日本人のアルバイトがあつまらないからだ。

 編集部にメールを送ってきた女性の娘は、結局「地域正社員」に到達する前に、中途退社した。人件費は削れるだけ削り、人手が足りなくなると、片っ端から動員をかけて残業を強制する。もっとも原始的な人件費削減法である。

©文藝春秋