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人間がもつ時間をムダとして排除する疎外の方式

 ユニクロの企業経営の人間疎外を象徴している、次のような文章がある。

「レジでの精算業務を平均90秒とすると、顧客のレジ誘導が課題となる。レジ列先頭からレジに到着するまで平均7秒をムダにしているからだ。ピークの1時間当たりの顧客数を1000人とすると、1000人×7秒=7000秒がムダになっている。この7000秒を有効に使えば、さらに77人のお客様をレジを通過させることができる」

 客の誘導をまるでベルトコンベアー式に、1秒のムダもなく管理しようとする標準作業の思想は、人間と向い合う仕事ではない。人間がもつ時間をムダとして排除する、現代の工場生産の、あえていえば「トヨタ生産方式」の直輸入である。

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 生産と販売を機械的に直結させ、人間を介在させない疎外の方式は、サービス産業の自己否定であろう。まして衣類は人間を安らぎで包み込むもののはずだ。まもなく、膨大な商品の管理、販売はAIに代えられよう。

役員報酬額20億円「偉大なる柳井商店」はどこへいくのか

 Amazon、UNIQLO。横田増生さんの世界的な流通現場への潜入ルポは、第三次産業での現在只今の人間疎外の報告である。もっとも人間的な関係で成立つ職場が、利益追求のために人間関係が解体されている。この矛盾を暴いて、2億2000万円の損害賠償請求と書籍回収請求の裁判を受けた。

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 50年前、わたしは、自動車、鉄鋼、ガラス工場での解体された労働を、トヨタ自動車本社工場、新日鉄(現日本製鉄)八幡製鉄所、旭硝子(船橋工場)などでの体験ルポを発表したが、巨大企業3社は訴えるほど愚かではなかった。事実に謙虚、かつ報道を尊重したのだろうか。が、そのどちらにしても、労働現場の自由は、それ以降ますますちいさなものになったことを理解できる。

 ユニクロの役員報酬額10億円が、20億円に引き上げられた。社内役員は柳井正氏と2人の息子。柳井家以外のもう1人の役員に株式保有はない。柳井家一家で40数%の株式保有。売上高に占める人件費は、13・8%から13・2%に下がった。柳井正氏個人の自社株配当金は、年間100億円。総資産2兆円。あぁ、「偉大なる柳井商店」はどこへいくのか? 前近代的な人間蔑視が、人間尊重の意識に変るのは、これからであろう。

【続き】「ユニクロに潜入取材したジャーナリストは、こうしてアルバイトに採用された」へ

ユニクロ潜入一年 (文春文庫 よ 32-2)

横田 増生

文藝春秋

2020年8月5日 発売