皇后さまは文化人類学者の原ひろ子さんを会長とする「女性科学研究者の環境改善に関する懇談会」にも同額の寄付を申し出られ、心理学者の岩男壽美子さんらを中心に『科学する心—日本の女性科学者たち』が同じ2001年に出版されました。この本では、10人の先駆的女性科学者と、彼女たちを男女の区別なく支援した男性科学者も紹介しています。
こうした経緯は、同書の謝辞に記されてはいますが、ほとんど一般に知られていません。今でも恵まれているとは言いがたい日本の女性科学者たちを、表に出ることはなくそっと支援し続けてきた皇后さま。昨今の、医学部の女性受験者を不利に扱ってきたニュースをご覧になって、さぞ残念に思われているのではないかと私は思うのです。
檀家をもたない門跡寺院へのご配慮
人びとの目が届きにくいところにいる人へ、そっと手をさしのべられる。そうした皇后さまの、「文化の護り人」としてのあり方は、尼門跡寺院へのご支援にも感じました。
かつて皇族や公家の女性が出家して門跡(住職)となった御寺が、現在も京都・奈良に13か所ほど残っています。明治になり、皇族の出家が禁止されて門跡寺院は皇室との関係を失ってしまいました。また、廃仏毀釈があり、さらには戦後の土地改革で、檀家をもたない門跡寺院にとって唯一収入の道であった土地を失い、戦後は貧窮のさなかにありました。
途方にくれて企画されたという、京都・宝鏡寺の「人形展」を、数年後、若き皇太子妃時代の美智子さまが、京都ご訪問の折に「拝見にうかがってもいいかしら」とご覧になりました。すると、その年を境に驚くほど多くの人で賑わったそうです。いまやお雛祭りの時期には大勢の観光客が目指す有名寺院になりました。
コロンビア大学教授のバーバラ・ルーシュさんを中心とした、尼門跡寺院の御宝物の修復と保存に関するプロジェクトにも、実は、皇后さまはご著書の印税を寄付されているのです。
「皇后さまは門跡さま方に対し、いつも“なにか陛下のおいとこさん方のような気がして”と優しく見守っていらっしゃり、私の仕事も長年にわたって支援してくださっています」とルーシュさんは語られています。
私が大好きな美智子さまのお言葉があります。雅子さまのご懐妊中、ご誕生になるお子さまにどんな言葉をかけられますか、との記者の質問に、皇后さまはこう答えられました。
「きっと秋篠宮家の二人の子どもたちの誕生の時と同じく、『よく来てくれて』と迎えるだけで、胸が一杯になると思います」