訓告処分の内容を否定するのかと問うと「はい」
また、文科省は2007年2月、「問題行動を起こす児童生徒に対する指導について」という通知を出している。それには以下のように記されている。
〈教員等は、児童生徒への指導に当たり、いかなる場合においても、身体に対する侵害(殴る、蹴る等)、肉体的苦痛を与える懲戒(正座・直立等特定の姿勢を長時間保持させる等)である体罰を行ってはならない。体罰による指導により正常な倫理観を養うことはできず、むしろ児童生徒に力による解決への志向を助長させ、いじめや暴力行為などの土壌を生む恐れがあるからである〉
市側の主張や顧問教諭の陳述書は、市教委が認定し、県教委に対して報告した内容や、それによる訓告処分、文科省の通知と反している。
母親は「川口市は、訓告処分の文書を作成しています。進行協議で、“その内容を否定しているのですか?”と聞きました。すると、市側の主任弁護士は“はい”と答えました。どう理解していいのかわかりませんでした。もう言葉が見つかりません」と呆れた様子で話した。
また川口市教委では、加藤さんへのいじめについて、重大事態として位置付け、「いじめ問題調査委員会」を設置した。調査委の報告書では、検討した8項目のうち、7項目をいじめと認定。「法律上のいじめと認定できる行為があり、その行為が不登校の主たる要因と考えられる」としていた。
この件についても、市側は「調査委がいじめを認定したことは認める」と曖昧な主張を繰り返してきた。この日の進行協議では、裁判所に促されて、市側は調査委が認定したいじめの態様と、市側のいじめの認識が違っていると、これまでの主張を繰り返した。
石川弁護士は「いじめ内容の事実と評価が違ってきますと、再発防止策も変わってきます」と慎重な姿勢を示した。
「川口市は事実から逃げることばかりされています」
川口市はこの訴訟で、いじめ防止対策推進法を「欠陥がある」などと言い、次のように指摘していた。
「法は、未熟な児童・生徒らの衝突や軋轢の全てに配慮し、いじめへ発展する芽を摘むとの趣旨を規定しつつも、同時に、その定義に該当する行為の全てを加害行為と評価して、行為者を非難し排除するべきだと誤解又は曲解することをも可能とする、大きな自己矛盾を内包するものである。……(中略)……法律としての整合性を欠き、教育現場に与える弊害を看過しがたい欠陥がある」
もちろん、このような指摘をする声は、政治家や研究者の中にはあるだろう。しかし、行政が裁判において、法が規定する解釈をめぐってではなく、法律そのものを批判するのは稀なケースといえる。しかも、今回は、顧問教諭を訓告処分した前提事実を自ら否定することになった。これは前代未聞だ。
母親は「事実をもとに争うのが裁判だと思ってきました。しかし、川口市は事実から逃げることばかりしています。裁判をしている感覚になりません」と述べた。
※2020年8月6日16:40追記:石川賢治弁護士のコメントを一部修正しました。