2020年上半期(1月~6月)、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。裁判部門の第5位は、こちら!(初公開日 2020年3月12日)。

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 2019年3月、性犯罪に関する無罪判決が4件相次いだ。なかでも、最も衝撃的だったのは、名古屋地裁岡崎支部で、19歳の女性が、実の父親に性交された準強制性交等事件に無罪判決がなされた件だったのではなかろうか。

 2020年3月12日、この岡崎準強制性交等事件の控訴審で「逆転有罪」の判決がくだった。これは、久留米準強姦事件の控訴審に続き、一連の無罪判決の中では2件目の逆転有罪判決である(なお、残りのうち1件は、検察官が控訴せず、既に無罪で確定している。残り1件は、高裁で審理中である。)

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控訴審の判決が出された名古屋高裁 ©文藝春秋

 この記事では、岡崎準強制性交等事件の控訴審で有罪判決が出た理由や、岡崎準強制性交等事件であらわになった現行法の問題点を解説する。

そもそも「準強制性交等罪」って何?

 岡崎支部の事件は準強制性交等罪での起訴なので、以前記事で取り上げた久留米準強姦事件と同様、被害者が「抗拒不能」の状態にあったことが必要である。「抗拒不能」は、「抵抗することが著しく困難な状態」と説明されることが多い。「抗拒不能」には、身体的抗拒不能と、心理的抗拒不能とがある。

 久留米準強姦事件では、被害者が酩酊させられていたので「抗拒不能」のうち、身体的抗拒不能が問題となった事案であった。

 岡崎準強制性交等事件では、抗拒不能のうち、心理的抗拒不能が問題となる。

地裁では、なぜ「無罪」になったのか?

 まず、当初の無罪判決につながった、地裁における事実認定を振り返ってみよう。

 名古屋地裁岡崎支部は、被告人は、被害者が中学2年生のころから性交を含む性的虐待を開始したことや、事件前日までの間に、被害者は、被告人から、こめかみの辺りを数回拳で殴られ、太ももやふくらはぎを蹴られた上、背中の中心付近を足の裏で2、3回踏みつけられたという暴行の存在は、認定していた。

 しかも、名古屋地裁岡崎支部は、被害者の事件当時の心理状態について、精神科医が、被害者は学習性無力の状態にあり、「被告人に対して心理的に抵抗できない状況」である旨の鑑定意見に、高い信用性が認められると述べていた。

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 しかしながら、名古屋地裁岡崎支部は、被害者が両親の反対を押し切って専門学校に進学し、その学費を被告人が負担していたこと、抵抗により性交を拒絶することができたときもあったことなどから、被告人が、被害者の人格を完全に支配し、被害者が被告人に服従・盲従せざるを得ないような強い支配従属関係にあったとまでは認めがたいとして、「抗拒不能」にあったことを否定し、無罪判決を下した。