1ページ目から読む
2/4ページ目

拘置所での面会

 留置所や拘置所、果ては刑務所まで面会に行くので、こうした空間を異次元の場所と捉えることもなくなった。刑務所での面会は身分帳に名前を記入した人間以外できないが、たぶん、20人近くの身分帳に私の名前が載っているだろう。もっとも悲しいのは拘置所での面会だ。ションベン刑と言われる短期にせよ、長期服役にせよ、刑務所に入ってしまえば娑婆に出られる日は分かっているから、その点、当事者も吹っ切れている。

 拘置所に面会に来る人間たちをみても、複雑な心境になる。

 先日、大阪拘置所に面会に行った。ここは別名“リバーサイド”と呼ばれる。川のすぐ脇にあるからで、側には高層マンションが建ち並ぶ不思議なエリアだ。

ADVERTISEMENT

 入口にある無料のロッカーに携帯電話やカメラ、ICレコーダーをしまい、金属探知を通って待合室に向かう。待合室には真っ青なセルロイドでできた羽根の、東芝製の古い扇風機が設置されていて、夏場はそれが首を振りながらうなり声をたてている。

©iStock.com

 待合室には、一目で暴力団関係者と分かる人間も多いが、その恋人や家族もたくさんいる。先日、リバーサイドの待合室でみかけた老夫婦のおじいさんは、杖をつきながら宅下げ(金品を持ち帰ること)・差し入れの窓口を探してウロウロしていた。朝早い面会だったからか、スーツ姿のサラリーマンや、作業服を来た男性たちもいた

子連れで刑務所へ面会に来る家族

 目立つのは子連れの女たちだ。この日はスカジャンに金髪のポニーテールの若いママが、5、6歳くらいの男の子を連れていた。赤ちゃんを連れた女性も少なくない。だから面会室の入口のすぐ横にはベビーベッドがおいてある。

 待合室の中央には2本の太い柱が建っていて、面会室側のそこにはマガジンラックが設置されている。そこにあるのは子供向けの絵本ばかりで、ボロボロになった『シンデレラ』や『不思議の国のアリス』が置いてあった。たしかにここは不思議の国だろう。しかし、子供たちにその自覚はない。パパに会える場所、遊園地と変わらない気分のはずだ。

 自分が好き勝手なことをするのはいい。刑務所に入るのも自己責任だ。しかし、家族がいるなら、なにより子供までいるのなら、もうちょっと他の生き方は出来ないのだろうか。

 死刑囚が収容されているのも拘置所である。彼らは刑の執行――自分が殺されるために収容されているので労役もなく、服装も自由に選べる。大抵の死刑囚は、面会のときもスーツ姿で現れる。話す内容は毎回、ほぼ一緒だ。希望を失わず、死刑が執行されるその日まで、しっかり生きてくれ、というしかない。面会を重ねるうち、どんどん情が移ってくる。無残にも殺された被害者のことを思い出しなんとか我に返る。