2000年代、一世を風靡したドラマ「SEX AND THE CITY」(以下SATC)。華やかなニューヨークでロマンスを追求する30代女性4人の友情を描いたこのドラマに当時ハマったという女性は少なくない。キャンディス・ブシュネルはドラマの原作となったエッセイ集の作者だが、ドラマ版との距離感は微妙だと私は思っていた。ドラマのヒロインで恋愛とセックスのエキスパートであるコラムニスト、キャリー・ブラッドショーとブシュネルは同一人物ではない。それが証拠に、彼女の書いた『セックスとニューヨーク』(1996)は、回を重ねるに従って大都会のセックス事情から女子の友情物へとシフトしていったドラマよりも辛辣だ。
『25年後のセックス・アンド・ザ・シティ』はブシュネルの最新エッセイ集だ。面白いのは、友情を何よりも大切にし、ロマンスを諦めないというドラマのキャリー・ブラッドショーに彼女が自分をぐっと引き付けてきた点にある。この本はタイトル通り、まるでドラマ版の続編のようだ。ブシュネルにはシニカルでいられない理由があった。2012年に夫と離婚した彼女は50代。かつての主戦場ニューヨークも、恋愛事情もリーマン・ショックを経て様変わりしていた。同年代の友人たちの離婚も相次いだ。結婚は幸せな結末ではなかったのだ。50代の恋愛事情についてのエッセイを頼まれたものの、突然またシングルになったブシュネルは戸惑いを隠せない。
女性にとってバイアグラのような存在である、膣の厚みと弾力を取り戻すレーザー治療“モナリザ・トリートメント”に驚いたり、人気のマッチング・アプリの“ティンダー”で、実は恋愛が生まれていないという事実に切ない思いをしたり。かつては栄華を誇った高級ブティックも実は破綻寸前で、客引きに余念がない。変化したのは、恋愛模様と都会だけではない。ブシュネル自身の視点や見える風景も変わった。その結果、彼女のエッセイはかつてのドラマ版SATCと同じ道筋を辿ることになる。恋愛やデートの話から、避けて通れない人生の問題と、その解決のために手を携える女性同士の絆に話がシフトしていくのだ。
この本でブシュネルと彼女の友人が対面する問題は切実なものだ。彼女は中年たちが根本的に抱えるお金や健康、孤独、先の見えない未来への不安について、ユーモアを交えながら掘り下げていく。そしてこれは、今や女性特有の問題ではない。同世代の男性も、確固たる基盤が失われつつある世の中で、同じ恐怖を感じているはずだ。50代に人間は状況に応じて“何度でも再起動できるような”小さなエンジンのようでなくてはいけないとブシュネルは言う。同時にこの本から伝わるのは同性の友人の尊さである。SATCのキャリーの未来の姿を、キャンディス・ブシュネルは体現したのである。
Candace Bushnell/コネチカット州グラストンベリー生まれ。ライス大学、ニューヨーク大学で学ぶ。フリージャーナリストとして活躍。『セックスとニューヨーク』(早川書房)は、『SEX AND THE CITY』としてテレビドラマ化、映画化された。
やまさきまどか/1970年東京都生まれ。コラムニスト。著書に『女子とニューヨーク』『優雅な読書が最高の復讐である』など。