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――世間が変わったというよりは、ご自身の発信する内容が変わったからだ、と。とはいえ、#1でお聞きした野田洋次郎さんについても、優生思想を知らずに自力で優生思想的な発想に辿り着いている。これには、世間の空気が関係しているのではないでしょうか。

乙武 それはあると思います。優生思想の最たるものが、ナチスによるホロコーストですが、あの歴史に残る愚かな政策がなぜ進められてしまったのかというと、やはり経済の問題は大きく関係していると思っています。

 

 第1次世界大戦で敗れたドイツが多額の賠償金を背負わされ、国の経済全体が沈没していく。その中で、誰かをスケープゴートにする必要があった。

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 つまり、国民全体が経済的に苦労しストレスがたまっている中では、誰かを槍玉に挙げて「自分たちは本当は優れているはずなのに不当な苦労を強いられている」と溜飲を下げるというのは、たぶん人間の本質なんじゃないか、と。

「社会の中で足を引っ張っている」と見られてしまう存在に対する風当たりというのは、当然国の経済状況と大きく結びついてくるのだと思います。だから、今の日本人も「ホロコーストは全くの対岸の火事だ」とは思わないほうがいい。

「トランスジェンダーならトークができるんだろう」という思い込み

――日本社会の展望について伺います。乙武さんのように傑出した人が、そのマイノリティグループの代表とみなされてしまうという問題は、今後も繰り返されていくのでしょうか。

乙武 あるトランスジェンダーの方が「別に自分たちみんなが悩み相談に乗るのが上手なわけじゃないのよ」って言ってたんです。

 つまり、実際にトランスジェンダーかどうかはさておき、そのように認識されがちな、いわゆる「オネエ系タレント」と呼ばれている人たちがいますよね。マツコ・デラックスさんやミッツ・マングローブさんのような。

 そういった方々が軽妙なトークや含蓄のある切り返しをメディアですることで、一般の方が「トランスジェンダーの方はみんなそういうトークができるんだろう」と思って接してくる。

 

「あまりにマツコさんのイメージが強烈であるが故に肩身の狭い思いをしている方もいらっしゃる」というのは、私がずっと受け続けてきた「お前がメディアに出続けるから俺が肩身の狭い思いをしてる」という批判と全く同じ構造だったんですね。「ジャンルは違えど、全く同じ事が繰り返されているんだな」というのが非常に印象深かったんですよ。