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2020/08/29

genre : ニュース, 社会

 分裂時の山口組の構成員は約6000人、神戸山口組は約2800人。最大組織ゆえに分裂したとはいえ双方は依然として巨大組織同士。まともに衝突することになったら、市民生活の脅威になることは間違いない危険な状況だった。

 山一抗争でも一般市民が巻き添えで負傷したケースもあったほか、1997年8月には5代目山口組若頭の宅見勝が神戸市内の喫茶店で、若頭補佐の中野太郎が率いる中野会系組員に射殺された内部抗争事件では、歯科医の男性が流れ弾で死亡している。

 警察としてはこうした事態は悪夢としか表現のしようがない。一般市民が巻き添えとなる事態は絶対に避けなければならないことだった。

 金高の表情が厳しかったのには、もう一つの理由があった。

 山口組分裂の翌年となる2016年5月26~27日に、オバマ米大統領ら各国首脳が来日して三重県で主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)が開催されることが決まっており、全国の警察はテロ対策に取り掛かる手はずとなっていたのだ。

 テロは各国首脳を狙った事件ばかりではない。2005年に英国で開催されたグレンイーグルズサミットでは、ロンドンの地下鉄で爆弾が爆発したケースもあり、東京や大阪などの大都市では無差別に一般市民をターゲットにした事件も想定されていた。

 当時の警察当局は、伊勢志摩サミットへ向けた主要都市での警備計画の作成と同時に、山口組の対立抗争事件の抑え込みという難題への対応を迫られたのだ。

山口組系幹部が口にした「大きな音」とは?

 警察当局が抗争事件の発生を警戒する中、6代目山口組も、神戸山口組も、着実に抗争に向けた準備を進めていた。

 山口組が分裂した直後、山口組系幹部は今後の行く末について、こんな独特の表現で説明した。

「これから『大きな音』がしますよ。音がしないで済むわけがない」

 ここで言う「大きな音」とは、「拳銃の発射音」のことを意味していた。山口組と神戸山口組の間でかつての山一抗争のような殺し合いが続発することを予言していた。

(写真はイメージです) ©️iStock.com

 暴力団業界がそんな危惧の念を抱く中、実際に抗争の火蓋が切られる。

 分裂して間もない2015年10月、長野県飯田市で男性(43)が銃撃されて死亡した。殺害された男性は山口組から神戸山口組に移籍するとの情報があり、移籍をめぐるトラブルが背景にあるとみられた。

 同月中には名古屋市内の繁華街で、山口組系弘道会と神戸山口組系山健組の間で乱闘騒ぎが発生。翌11月には仙台市内の繁華街で双方の十数人の組員らがにらみ合い一触即発の状態のところに警察が駆け付ける事態となった。