「山口組分裂状態に 抗争の恐れ、警察当局警戒」
「山口組離脱団体で新組織」
「山口組が分裂へ 山健組など脱退 新組織結成か」
いまからちょうど5年前、2015年8月28日付の新聞各紙には山口組を報じる見出しが躍った。前日の27日に山口組の分裂が判明すると、それまで暴力団については地味な扱いが通例だった新聞やテレビでも大々的な報道がなされた。
過去の山口組の分裂抗争を踏まえ、危機的な状況を迎えつつあるといったトーンの報道が主流だった。さらに6代目となって山健組から弘道会へと支配権力が移った点など、これまで一般のニュースでは取り扱われなかった山口組内部の権力構造に触れた詳細な報道もあった。世の中の暴力団業界への関心が高まっていた。
そんな状況の中で、山口組の分裂に最も強い視線を注いでいたのは、間違いなく警察当局だった。(全3回の2回目/#1、#3へ)
「山口組分裂」の一報で警察が考えたこと
2015年8月、山健組、宅見組、正木組など13組織が山口組を離脱して、神戸山口組を結成すると、山口組側は緊急の執行部会を開き、13人の直参を絶縁などの処分とした。
山口組分裂を目の前にして、当時、山口組系幹部だけでなく住吉会、稲川会など多くの暴力団幹部の脳裏をよぎったのは、史上最悪の暴力団抗争事件である「山一抗争」だった。
カリスマとして神格化されていた3代目組長の田岡が死去した後、4代目組長には竹中正久が就任したが、竹中を認めないグループが離脱して一和会を結成。双方で300件以上の対立抗争事件を引き起こし25人が死亡、70人以上が重軽傷を負った。竹中は1985年1月、一和会系のヒットマンに射殺されている。
そんな最悪な過去の事例が頭をよぎったのは、警察当局も同様だった。
当時の警察庁長官、金高雅仁は2015年9月、山口組分裂後初となった定例記者会見で、次のように発言した。
「現時点で抗争に関する具体的な情報は把握していないが、過去、組織分裂に端を発した大規模な抗争が発生し一般人が巻き込まれるなど市民生活の脅威となった例もあることから、警察においては情報収集活動を強化するとともに、必要な警戒を実施している」
その表情は厳しく、断固たる口調で強調した。「大規模な抗争」とは当然、山一抗争を念頭に置いていた。