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【山口組分裂抗争の銃撃史】「“大きな音”がしますよ」…そのとき拳銃は急騰し始めた

山口組分裂5年の暗闘 #2

2020/08/29

genre : ニュース, 社会

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 2016年1月には福岡市内の山口組系事務所に火炎瓶が投げ込まれるなど事件はエスカレート。首都圏へも波及し、東京の歌舞伎町でも乱闘騒ぎが発生したほか、神奈川、埼玉などでも対立する事務所への発砲、トラックでの突入などの事件が発生する。

 双方の直参の事務所などの拠点は、全国の44都道府県にある。そのため対立抗争は次第に全国に拡大していった。警察庁は、2016年3月時点ですでに49件の事件が発生していたことから、双方が対立抗争状態にあると認定。全国の警察本部に取り締まりの強化を指示した。

抗争が始まると「道具」が高騰

 抗争が広がる中、裏社会でも不穏な動きが起きていた。拳銃の価格が高騰していたのだ。

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 当時の状況について、山口組系の古参幹部が、「“道具”の値段が驚くほど高くなった」と明かした。「道具」とはケンカに使う「拳銃」を意味した。

「(2015年の)分裂前には道具は一丁、20万円から30万円で取引されていた。しかし、分裂後となると70万円から80万円に高騰した。実弾は一部では通称、マメと呼ばれていて1発につき1万円が相場だった。実弾を多めに付ければ拳銃一丁を3桁(100万円)で買い取るという提示もあった」

(写真はイメージです) ©️iStock.com

 拳銃を使ったさらなる凶悪事件の発生が危惧されるなか、警察当局にとっての懸案事項があった。

 6代目山口組は暴力団対策法に基づく「指定暴力団」であるため、繁華街の飲食店などからの用心棒代の徴収や対立抗争時の事務所の使用などの活動に対して様々に規制することが出来た。しかし、離脱して生まれた新たな団体である神戸山口組は指定暴力団ではない。そのため暴対法の規制外だった。いわば町内会やPTA、スポーツサークルなどと同じ、単なる「任意団体」という位置づけで、暴対法上は野放しのままの状態になっていた。

 各地で発生する対立抗争事件への不安から世論の後押しもあり、警察当局は神戸山口組について急ピッチで指定作業を進め2016年4月、暴対法に基づき指定暴力団とした。

 すると早々に効果が見られ、同年4月以降、抗争が一時沈静化した。事件が続発すると、さらに規制が厳しい特定抗争指定暴力団とされるため、それを回避するためとみられた。