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彼女の武器は経験、知識、想像力と行動力

──なぜ「お局」を主人公にしようと思ったのですか?

明日乃 “お局”というのは、口うるさいベテラン女子社員。時には仕事の手を抜き、若者に仕事を押し付ける。そういったネガティブな存在です。けれどもそれは、彼女たちの圧力で好き放題できないセクハラおやじや、会社のルールや仕事を知らない若者の未熟さが言わせているだけではないか、そう思ったのです。 女性活躍社会を標榜しながら、それができない、いや、あえてそうしないように見える男性たちへのアンチテーゼでもあります。

秘密のミッションは深夜残業で……。© Minoru 

──美智のキャラクターについて、教えてください。

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明日乃 “お局美智”は天才でも超能力者でもない。どこにでもいる普通の女性です。彼女が守りたいのは平穏な会社員人生で、そのために盗聴システムを利用している。しかし、彼女の本当の武器は、仕事で培った経験と豊富な知識、そして人よりも少しだけ自由な想像力と、他人のために惜しまない行動力です。彼女なら閉鎖的な会社と閉塞感の漂う現代社会を変えられるかもしれない……私は、そんな思いでキーボードに向かったのです。

──明日乃さんにとって会社とはどんな存在ですか?

明日乃 企業は利益を追求しています。その行動は合理的であるべきだけれど、実態は必ずしもそうではありません。仲良しグループが、あるいは一人の独裁者が、組織を蝕んでしまうことも多々あります。実際、会社員として、そんな様子を嫌というほど目の当たりにしてきました。企業の行動原理は合理性でも、それを構成する人間は感情の動物なのです。そんな企業の中で必死に生きる“お局美智”を描きたかったのです。

楽しみながら学んでほしい

──シェアハウスへの不正融資など、実際にあった事件が登場しますが、その理由は?

明日乃 小説を、ただ楽しむだけの小説としては読んでほしくないという思いがあります。全ての物語は生活とリンクしているからです。金融業で働いているなら、不正融資は身近な問題でしょう。鉄鋼のデータ偽装などもそうです。製造業で働いている方ならば、自分の仕事がどんな業種に繋がっているかを、改めて考える機会になるのではないでしょうか?

 楽しみながらも“学び”に繋がっているのが読書というものだと思います。その足掛かりになればと、できるだけ世の中であった不祥事やトラブルを物語に取り込むように努めています。

実際にあった事件をモチーフにしている。© Minoru

──書いていていちばん苦労したのはどんな点ですか?

明日乃 盗聴システムや元ヤクザの親分がデイトレーダーをしているなど、ともすれば嘘くさくなる設定にリアルさを持たせることです。

 企業内での盗聴は、会社員のころに聞いた噂です。が、私自身、社内で盗聴が行われているなど、信じることができませんでした。まして『お局美智』では、社内どころか社外の会話までも盗聴されているわけですから、真面目な読者なら容易には信じられないでしょう。

 そうしたことをリアルにするために、会社が業務管理に使うスマホやタブレット上のシステムに盗聴機能を組み込んだことにしました。大量のデータを確認する作業も、AIの助けがあって可能になることです。

 元ヤクザの親分を登場させたのは、ある意味、物語のスパイスですが、建設業界と政治家、反社会的勢力という昭和時代のパッケージを意識してのことです。そうした人物を、物語の中で自然に取り込むのには知恵を絞りました。それが成功したのかどうか、自信はありませんが。