日本の会社の問題点とは
──企業を舞台にしたお仕事小説が人気ですが、なぜだと思いますか?
明日乃 私の認識では、日本の企業は従業員と下請け会社の献身的な仕事に甘えているところがあります。
コンプライアンスが重視される中、あれもダメ、これもダメ、と行動の制約が増えています。だからといって、業績の目標が引き下げられることもなければ、報酬が増えているわけでもない。シワ寄せは、従業員と下請け会社に押し付けられている……。世の中がスマートに動いているので、従業員や下請け会社の犠牲的な部分は見えにくいのですが、働く人々一人一人はシワ寄せを体感していて、その生き難さを理解してくれる“何か”を求めているのではないでしょうか? そうした思いを受け止めているのが、お仕事小説だと考えています。
──もしも『お局美智』がドラマ化されたら、美智は誰に演じてほしいですか?
明日乃 小説を書くようになってから、テレビドラマを沢山見るようになりました。物語の展開、キャラクター、台詞と、学ぶべきことが多いからです。そうすると、物語は面白いのに台詞がダメだとか、物語はありふれているのに俳優の力で面白くなっている、と感じることがあります。
もし、『お局美智』がドラマになるのなら、美智には演技派の方にお願いしたいですね。それが誰か? と尋ねられると少し困ります。私、人の名前が覚えられないのです……。会社員をしていた頃から、○○の部署の人だけれど名前は? と、頭の中でクエスチョンマークが踊ることがしばしばなのです。まして俳優さんに至っては、「あのドラマに出ていた人だ」と、わかることがあっても名前は出てきません。
というわけで、贅沢はいいません。演技の上手な方でお願いします。(十分、贅沢な要求ですね)
──最後に、読者へのメッセージをお願いします。
明日乃 私は本を読まない子供でした。読むようになったのは高校生になってからです。高校が進学校でしたから、周囲で小説の話題が増え、慌てて読み漁るようになりました。もう少し早く数々の書物に触れていたら、違った自分になっていたかもしれません。
本を読むにあたって大切だと思うのは、それがお仕事小説であれ恋愛小説であれ、あるいは喜劇であれ、自分の事として考えてみることです。知るだけではダメなのです。考えるのです。そうすることで読書が血肉となり、書物が生きてきます。
『お局美智』も、インスタントラーメンに自分なりの具材を入れるように、「問題が解決して良かったな」ということではなく、「私ならどうするだろう」、「俺の考えとはちがうなぁ」と、ひと手間加えてみてください。そうすることで生きる力がアップするに違いありません。そうした読み方をしていただけたら、私は本望です。
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明日乃(あすの)
福島県出身。法政大学卒業。2017年、第1回「週刊文春」小説大賞受賞。受賞作『お局美智』は「週刊文春」誌上に2回にわたって掲載されたほか、文藝春秋から電子書籍として配信された。以後、「お局美智」シリーズとして、『お局美智2 姿なき愛人』、『お局美智3 You’re fired!』、『お局美智4 キャット・パニック!』、『お局美智5 緑中央銀行の錬金術師』、『お局美智6 汚れた異動辞令』、『お局美智7 ウイルス感染源を追え!』、『お局美智8 特命出張は有給休暇で』、『お局美智9 キャバ嬢接待にご用心』、『お局美智10 会社は私が守る!』を電子書籍として発表している。