※こちらは公募企画「文春野球フレッシュオールスター2020」に届いた原稿のなかから出場権を獲得したコラムです。おもしろいと思ったら文末のHITボタンを押してください。
【出場者プロフィール】田村 あゆみ(たむら・あゆみ) 東京ヤクルトスワローズ 年女歳。ヤクルトファン歴38年、うち神宮観戦歴33年のオールドファン
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『侮辱行為で退場処分』
ネット記事で目にしたその文字は、私に衝撃を与えた。起こったこと以上に衝撃的だったのは、それが戸田のファーム戦で起きたことで、起こしたのが自軍・ヤクルトの選手だったということだ。
一体なにが起こったのか、何をどう侮辱したのか、処分とは一体何なのか。配信動画のアーカイブを確認すると、そこにはたしかに、退場となった“ウチの選手”が映っていた。
濱田太貴。はまだたいき。2018年ドラフト4位で東京ヤクルトスワローズに入団した、当時高卒1年目のルーキーだ。
2019年8月2日金曜日。戸田球場の対埼玉西武ファーム戦。
濱田は見逃し三振の後、立っていたバッターボックスの地面にバットでラインを引き、1塁側ダグアウトに歩いて戻る。その瞬間、球審が手を挙げ退場宣告した。
ラインを引く行為は、ストライク判定を不服としたあからさまな抗議だ。「ここがストライクかよ」。ボールの軌道を引いた濱田を、球審は見逃さなかった。
1年目の18歳が起こした退場騒ぎにファンもざわついた。ずいぶん勝気な子だな。濱田の人となりをそこまで知らなかった私は、この濱田の新情報とともに、6日前に見た神宮の光景を思い起こしていた。
バッターボックスで耐えていた山田哲人
山田哲人が無安打に終わり、チームも2対3と敗れた7月27日土曜日、対広島戦。
1点ビハインドで迎えた終盤、山田哲人の第4打席。なんとかここで。ファンが期待を込め固唾をのんで見守る中、見逃し三振。スリーアウトチェンジとなってしまった。残念。でもまだ攻撃のチャンスはある。次だ、次。
選手が引き上げ、グラウンド整備が始まり、球場全体の空気が次の回への準備へと変わる。そんな中、ひとりバッターボックスで立ち尽くす山田哲人が、そこにいた。
山田哲人は感情が表に出るタイプではない。飄々とでっかいことをやってのける、それが山田哲人だ。そしてそれはときに淡々とした表情に映り、つかみどころのない印象も与える。
そんな山田哲人が、動かない。つい先ほどのストライク判定への不服がひしひしと伝わってくる。見逃し三振の悔しさもあるだろう。
山田哲人は、耐えているのだ。
ヤクルトの背番号1。それは、ヤクルトの顔だ。成績だけではなく、こどもたちの模範としての社会的規範も求められる。勝負の世界で、悔しい思いもたくさんしている。それでも山田哲人は、ヤクルトを背負って立つ自覚と覚悟を持ってグラウンドに出ていた。
動けなかった山田哲人がダグアウトに戻ったのは、しばらくしてからのことだった。