意外な局面で持将棋が成立したケースも
プロ棋戦でも27点法を導入すれば、決着は確実に早まると思うが(少なくともタイトル戦の七番勝負第8局は生じない)、27点法に前向きな声はあまり聞かれない。「駒の取り合いで別のゲームになる」というのがその最たる理由だろうか。
逆に言うと、両者の同意があれば、傍から見て意外な局面でも持将棋が成立することになる。
図は2012年5月18日の棋王戦、▲長岡裕也五段―△及川拓馬四段(当時)戦。先手の玉はまだ自陣にいるが、この局面で持将棋となった。総手数116手は、史上最短手数の持将棋(1976年以降のデータが入っている棋界関係者用のデータベースによる)となる。
長岡五段に当時のことを聞いてみた。
「当時は公式戦でここから点の取り合いをするのもどうかなと思い、私から持将棋の提案をしました。提案がかなり早いので及川さんは驚いたようでしたが、了承してもらい持将棋となりました。対局後に研究会仲間と局面について話したときは、形勢としては持将棋ではないかということになりました。
しかし、改めてみると先手の点数が足りるかぎりぎりのようにも思えます。1点勝負になるかもしれません。持将棋の最短手数ということは意識をしたこともないですし、今まで知りませんでした。普通はここで持将棋が成立することはないでしょうね。宣言法もできましたし、私も今ならここから何十手と指すでしょう」
11万局以上の棋譜のうち持将棋局は200局ちょっと
そもそも、プロ棋戦で持将棋はどのくらい起こり得るのだろうか。上記のデータベースには11万局以上の棋譜が収録されているが、そのうち持将棋局は200局ちょっとしかない。持将棋と同じく指し直しとなる千日手が2000局近くあるので、実に10倍近い差だ。
現役棋士の中で、もっとも多く持将棋を経験しているのが小林健二九段で、通算対局1450局(数字は2020年9月1日現在、以下同)のうち、10局が持将棋となっている。続くのが中川大輔八段の9局(通算1209局)だ。ちなみに通算対局が2000局を超えている谷川浩司九段は8局(通算2212局)で、羽生善治九段は4局(2078局)。
ただ、通算対局数が多ければ持将棋局も当然多くなる。通算対局数と持将棋局を比較して、持将棋出現率がもっとも高い棋士は誰だろうか。
「持将棋が多そうな棋士は?」と数名の棋士に聞いてみると、異口同音で「永瀬拓矢二冠」の名が挙がった。叡王戦七番勝負における2局連続持将棋の衝撃は小さくないだろう(豊島将之竜王という声はなかった。豊島竜王は叡王戦の前に持将棋を経験していないからか)。永瀬二冠は507局中5局が持将棋なので、ほぼ100局に1局の割合で持将棋が出現している。プロ棋界のトータル出現率と比較して5倍ほどである。