アミロイドβなどのタンパク質老廃物が蓄積される
では、なぜ睡眠不足だと老廃物の一種であるアミロイドβの量が増えてしまうのだろうか。
「起きていると、脳は覚醒し、何かを考えたり、注意したり、計算したりと、絶えず活動しています。当然その分、神経活動に依存しておりアミロイドβも産生される。逆に睡眠中は、脳が休んでいるので、産生が減ってアミロイドβの除去が活性化されていると考えられています」(髙島教授)
実は、睡眠中はアミロイドβの産生が抑制されるだけでなく、すでに溜まっているアミロイドβを効率良く排出するシステムも稼働しているというのだ。
中部大学生命健康科学研究所の宮崎総一郎特任教授が指摘する。
「これまで、アミロイドβなどのタンパク質老廃物はオートファジー(細胞による自食)などにより、あくまで脳内で処理されていると考えられてきました。しかし、アミロイドβの産生量からすると、この処理だけではどうやっても追いつかない。そうした中、数年前に発表されたのが、『グリンファティック・システム(グリア細胞とリンパ系を合わせた造語)』です」
これは、ローチェスター大学医療センターのマイケン・ネーデルガード教授らによる研究結果だ。
脳以外の体内で産生された老廃物は、体内に張り巡らされたリンパ系によって集められ、血管に流れ込んでいる。そして最終的には尿として排出される。リンパ系が“体の下水管”とも言われるゆえんだ。
ところが、このシステムは首から下にしか存在していない。脳にはリンパ系が通っていないのだ。
「そこで重要な役割を果たしているのが、脳から脊髄の中を循環している脳脊髄液です。この脳脊髄液がリンパ系の替わりに脳内の老廃物を洗い流していることが分かりました。洗い流された老廃物は、脳脊髄液とともに脳内血管の周囲腔を通り、脳の外側を覆っている硬膜内で血管に流れ込み、体外へ排出されると考えられるのです」(同前)
しかも、このシステムは、睡眠中ほど活発に機能するというのだ。
「脳の神経細胞を周辺で支えているグリア細胞は睡眠中に収縮し、大きな“隙間”を作ります。これを神経細胞間腔と言いますが、起きている時より、約60%も“隙間”が拡大すると推測されている。つまり、グリア細胞が縮んだ分、脳脊髄液はより循環しやすくなり、多くの老廃物を排出できるということです。これまでの研究でも、アミロイドβの排出率は睡眠時間の長さときれいに相関することが分かっています」(同前)
ちなみに、アルツハイマー型認知症と深い関係があるアミロイドβの蓄積は、40代のころから始まっているとされる。だが厚労省の「国民健康・栄養調査」(平成29年)によれば、普段の睡眠時間が六時間未満の人は、男性で36.1%、女性は42.1%。さらに「睡眠で休養が十分に取れていない人」は全体で約20%に上り、中でも40〜49歳の世代が一番高く30%を超えている。
認知症予防としての睡眠は、決して高齢者だけの問題ではない。働き盛りの世代もまた、心がけるべきことなのである。
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続きは『最新予防から発症後の対応まで 認知症 全部わかる!』に収録されています。