「イライラとの戦い方、抑え方を学んでいます」と語った2017年
テニスのスケールやポテンシャル、成績と釣り合わない幼さだった。しかし、そんな自分を乗り越えなければならないと本人が自覚していたのも確かだ。17年のシーズンオフにはこう語っている。
「重圧やフラストレーションでうまくいかないこともありますが、その都度、イライラとの戦い方、抑え方を学んでいます」
選手にとって成長とは? の質問には「どんな状況でも動揺したりせず、自分がどうすべきかを知っていることだと思います」と答えた。
初の四大大会制覇も、未成熟ぶりが見られた2018年
まさにその点が自分の課題と分かっていながら、成長、成熟のはるか手前でもがく時期が続いた。コーチのサーシャ・バインはその大坂をうまく導き、18年全米で四大大会初優勝を飾る。最初の成功だが、当時の未成熟ぶりを物語る数字もある。
この18年、第1セットを失ってからの逆転勝ちはわずか2試合。ストレート負けが17試合(途中棄権2試合を含む)で、第2セットを奪い返して最終セットで敗れた試合が3。すなわち、第1セットを落とすと、2勝20敗の惨憺たる成績だった。劣勢に動揺し、うまくいかないプレーにフラストレーションを溜める悪癖はそのままだったのだ。
19年1月の全豪で四大大会連覇。大会後に世界ランキング1位に上りつめたが、課題解決はまだ遠かった。
同年のウィンブルドン選手権で不本意な1回戦敗退を喫した大坂は、試合後の記者会見の途中で進行役に「泣いてしまいそう」と訴え、中途で退席した。目標だった頂点に立ったものの、立場の急な変化に戸惑い、重圧に押しつぶされていたのがその頃の大坂だった。
優しくて面倒見のいい“兄貴分”からの自立
成長のカギの一つは、同年の初春、すなわち全豪で四大大会連覇を果たしたあと、バインコーチのもとを離れたことではないか。契約解消の詳しい理由を両者は明かしていないが、大坂の自立心が強くなったことが一因と思われる。
バインは献身的で、辛抱強く、洞察力のあるコーチだった。大坂の未熟さによく付き合いながら、同時に、自分で問題を解決する大切さを説いた。コーチに頼りきりの一流選手はいない。大坂もそのことを理解していた。そして、バインコーチの想定よりかなり早く、優しくて面倒見のいい“兄貴分”からの自立を望んだのではないか。
こうして大坂は、一つ一つ課題を解決し、ゆっくりではあったが、成熟への階段を上った。
昨年の全米で、人間的な成長を披露するシーンがあった。15歳の新星コリ・ガウフ(アメリカ)との一戦での出来事だ。大坂にたたきのめされたガウフは、試合終了と同時に涙を溢れさせた。それを見た大坂は、一緒に勝利者インタビューを受けようと呼びかけた。
「シャワーに入って一人で泣くより、今の気持ちを話したほうがいいよ」