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“名将”ロンメルは、いかにして圧倒的な戦力のイギリス軍を壊滅させたのか

『ロンメル将軍 副官が見た「砂漠の狐」』より #1

2020/09/24

genre : ライフ, 歴史, 読書

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進撃を続ける

 数輛のほかの戦車――1中隊ほどがインド旅団のカメロン・ハイランダーズ部隊がいまなお全力をあげて戦っている地区から、わがほうを攻撃しようとした。だがそれらもまた、キングス・クロスのバルディア側に位置を占めていた第90軽師団の対戦車砲によって撃破された。4輛の戦車だけが、わがほうの兵隊が後に語ったところでは、やっと逃れ去った。

 しかしわが戦車部隊は生き残ったわずかな戦車に関心はなかった。計画によればわがほうの戦車は港の方へ北に圧迫を加えて、要塞を二分することになっていた。

 わが軍は南アフリカ部隊がまだ戦闘に参加していないのを心得ていた。彼らはわが軍が正面から攻撃して来るものと、手をつかねて待ちつづけていた。いまやわがほうは要塞の内部、彼らの背後にあった。わが戦車部隊の1グループは第90軽師団の一部とともに、西へ転じ、敵の歩兵予備部隊と相対峙している西翼の強化を完成し、また敵の第201近衛旅団と戦おうとしていた。

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 他の戦車14輛は、第15師団の自動車化歩兵部隊とともに、防禦砲火とトラック上の歩兵部隊の銃撃にもかかわらず、港へ向かって路を走りくだって行った。戦車部隊は、わが第115自動車化歩兵連隊の掩護を受けて、さらにイギリス軍砲兵部隊を踏みにじった。やがてわがほうは港をはっきりと眺めることができた。小さな船が2隻、激しく煙りを吐きながら、逃亡しようとしていた。88ミリ高射砲でその2隻を狙ったが、船は外海に達していた。

 それからわが部隊は多くのトラックが止まったままでいるそばを通過した――敵が撃破された要塞から守備兵を脱出させる場合、ぜひとも必要とする車輛である。わがほうは計画にしたがって、暗くなる前に港に着いた。トブルクはたちまち混乱した。ドイツ軍は要塞守備隊――クロッパーの南アフリカ部隊の大部分と砲火をまじえる必要すらなかった。

砂漠の狐

 ロンメル自身も昼ごろからトブルク要塞のなかに入っていた。キングス・クロス分岐点で捕虜たちが彼のマンモスのそばを通って行進して行った。だが車の屋根の上に両足をひろげて立ち、双眼鏡で戦車の前進を眺めている小柄のがっしりとした人物が、「砂漠の狐」そのひとであるのを、推測したものは数えるほどしかいなかった。ロンメルは彼の野心が、14か月間胸にいだきつづけてきた目的が、ついに達せられたのを感じていた。

ロンメル将軍 副官が見た「砂漠の狐」 (角川新書)

ハインツ・ヴェルナー・シュミット ,清水 政二 ,大木 毅 ,大木 毅

KADOKAWA

2020年9月10日 発売

“名将”ロンメルは、いかにして圧倒的な戦力のイギリス軍を壊滅させたのか

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