韓国人の学者たちが、最大のタブーである「反日批判」に真っ向から異を唱えた『反日種族主義』。その日本語版刊行に尽力した産経新聞編集委員である久保田るり子氏が、『反日種族主義と日本人』(文春新書)で、『反日種族主義』の編著者である李栄薫氏と対談を行った。韓国の歴史学者は、韓国併合条約をどのように見ているのだろうか。

日本統治以前の朝鮮王朝

──韓国の保守派は歴史観の確立を放棄したのでしょうか。

「日本との関係を包括して歴史観を確立するには、まず、日本統治が始まる以前の朝鮮王朝とは何だったのかを理解しなければなりません。朝鮮王朝は中華帝国の諸侯として、非常に閉ざされた世界にありました。その時代が500年間も続きました。長い間、中国を頂点とする国際秩序が我々の社会の原理でした。中国の皇帝の下に朝鮮の王がおり、その下に両班がおり、その下に一般の人々がいる。中国の皇帝は、言わば『天』です。朝鮮の人々は、この天を500年間、誰一人否定しなかった。非常に強い政治哲学でした。朝鮮の人々は、海外で何が起きているのか、何も知らない世界観の中にいたのです。そうした中で、18世紀から朝鮮社会は分裂して腐敗していきます。19世紀末に日本が現れたとき、すでに朝鮮社会は分解されていました」

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李栄薫氏

──韓国では、日本統治時代の親日派は「売国奴」とされていますが。

久保るり子氏

「朝鮮王朝末期、韓国は売国するより前に解体されていました。だから、売国した人間は1人もいません。1945年の解放後に『新しい韓国人』は全人口の1割から2割いたと思います。『新しい韓国人』というのは、都市の官僚、警察官、軍人、銀行員、会社員、弁護士、医者など、近代化された社会で働く人々です。そうした人たちを基礎にして、大韓民国は建国されたのです。一方の北朝鮮は、近代化された人々を追放した(あるいは自ら南に逃亡した)ので、いまだに実質的に19世紀の奴隷制のままです。そうした朝鮮王朝以降の歴史を韓国の保守派は自分の歴史として受け入れて、その歴史から何を学ばなければいけないのか、近代文明とは何なのかを考えなくてはならないのです」