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ダブダブ服の18歳 ビリー・アイリッシュは笑わない

『トランピストはマスクをしない』より#1

2020/09/25

source : ノンフィクション出版

genre : エンタメ, 芸能, 音楽, 国際

note

背中に大量の注射器を刺され、真っ黒な涙を流す

 しかし、緑の髪をして、いつもパジャマみたいなダブダブの服を着て、無愛想なアイリッシュは、きらびやかでセクシーなポップ・スターのイメージとはまったく逆の存在だ。

「この子、何者?」

 グラミーを観ていたオジサンたちがあわてて検索したのか、ビリー・アイリッシュの名前はネットのトレンドに躍り出た。

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 ビリー・アイリッシュのミュージックビデオを初めて観た人たちは驚いただろう。精神病院の隔離病室を思わせる真っ白な部屋で、やはり精神病患者の拘束衣を思わせる白い服を着た彼女が、無表情のまま、首に鎖を巻かれたり、背中に大量の注射器を刺されたり、顔に火のついたタバコを押し付けられたりして、鼻から血を流したり、目からコールタールのように真っ黒な涙を流したりする。ほとんどサイコ・ホラー。

©iStock.com

 もちろん、彼女が歌うのは楽しい恋の歌なんかじゃない。例えば「idontwannabeyouanymore」。アイリッシュは鏡の中の自分に向かって「あなたなんかにはなりたくない」と繰り返す。

 また、「Bury a Friend」は、彼女のベッドの下に隠れ住んでいる怪物の視点で書かれた詞だ。

 ビリー・アイリッシュは2001年12月、ロサンジェルスに生まれる。両親は共に俳優でミュージシャン。彼女は一度も学校に通わなかった。APD(聴覚情報処理障害)があったからだ。APDは、音声は聴こえるが、言葉として理解するのに難があるという障害で、「人の話を聴いていない」「注意力がない」などと批難されることが多い。

 そこでアイリッシュの母は彼女を無理に学校に通わせずに、自宅で勉強を教えた。音楽は、やはり俳優でミュージシャンでもある兄フィニアスが教え、兄妹で共作するようになった。2016年、ふたりで作った歌をネットに上げたのが発見されて、デビューにつながった。