兵庫県庁などが立ち並ぶ官庁街から少し離れた神戸市中央区の住宅街。この地に2発の銃声が鳴り響いたのは、昨年10月10日のことだった。
現場は当時神戸山口組の中核組織だった山健組本部のすぐそば。事件発生直後、暴力団関係者の間では、「花隈で音が鳴った」との情報が駆け巡った。「花隈」とは同区花隈町にある山健組のこと、「音が鳴る」とは拳銃の発射音のことを指す。
撃たれたのは山健組の男性組員2人。事件後、間もなく死亡した。事件当日は山健組の定例の幹部会が開かれていて、多くの幹部たちが本部事務所を訪れていたという。
この事件が大きな話題となったのは、2人が死亡した重大性ももちろんあるが、発砲した“ヒットマン”が高齢だったことが、暴力団業界で波紋を呼んだ。
逮捕されたのは、神戸山口組と対立する6代目山口組弘道会系幹部の丸山俊夫、68歳(当時。以下同)。
これまで、暴力団同士の対立抗争事件では、若手がヒットマンとして事件を引き起こすのが通例だった。「高齢ヒットマン」の出現の背景には、一般社会同様に、暴力団業界も高齢化が進んでいることがある。(全2回の2回目/前編から続く)
76歳の男はなぜ拳銃を握ったのか?
この事件があった時期は、6代目山口組のナンバー2、若頭の高山清司が2019年10月18日に刑務所を出所した時期と重なり、対立する神戸山口組への銃撃事件が相次いでいた。
翌11月27日には、尼崎市内で神戸山口組系幹部の古川恵一(59)が殺害される事件が発生している。M16と呼ばれる自動小銃で数十発が発射された残忍さが際立ち、大きく報じられたこの事件。逮捕された6代目山口組系竹中組元幹部、朝比奈久徳も52歳。やはり若くない“ヒットマン”だった。
さらに高齢の“ヒットマン”も現れた。今年2月、三重県桑名市で、6代目山口組若頭の高山の居宅に向かって拳銃が発射されたのだが、銃刀法違反の現行犯で逮捕された、元山口組系組員の谷口勇二は76歳だった。
谷口は、「(高山の出身組織の)弘道会に恨みがあった」「3、4発撃った」と供述していた。しかし、当時事件の発生を知った指定暴力団幹部は次のように推測する。
「男はヤクザをかなり前に辞めていたが食うに困って何かしらの依頼を受けてやったのか、食うに困らない刑務所に入りたかったか。そんなところではないか」