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なぜ野党議員のドキュメンタリー映画で「泣ける」という感想が多いのか

「政治ドキュメンタリー」から語る、日本の現在地 #2

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テレビで培われた小池さんの凄まじい自己演出力

石井 政治家になる道筋も大きく変わりましたよね。世襲がますます固定化され、その一方でメディアを利用して出てくる人たちが増えた。丸川珠代さんにしても三原じゅん子さんにしてもテレビから。橋下徹さんも。そして、小池百合子は、その先駆け的存在です。

大島 テレビを最大限利用し、しかも物語に事欠かない政治家ですもんね。

石井 カイロ大学を首席で卒業した、ピラミッドの上でお茶を点てた、飛行機事故を2度回避して命拾いした……。メディアが飛びつくような派手な物語を小池さんは作ることに長けている。キャッチーな言葉をポンポンと言ったり。テレビで培われた凄まじい自己演出力だと思う。

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大島 得てしてヒーローには物語を求めてしまうわけですが、一方で人物取材をする我々はその物語化が過剰にならないように気をつけなければならない面もありますね。

石井 何を表現するにおいても、まず、事実であることが大前提だと思います。

大島 ちなみに『女帝』を書くときに何か影響を受けた作品なんかはあるんですか?

石井 影響を受けて書くということはありませんでしたが、構成を考える上ではミステリー小説も参考にしました。

大島 だから、ミステリーみたいに、読み出したら止まらない感じがあったんですね。

前原誠司さん、一体あの人は何だったんでしょうね

石井 小池さんが紡いできた物語は、あくまでも物語であって真実ではない。それなのにメディアは検証せず、真実のように伝えてきてしまった。それを洗い直していったわけですが、調べれば調べるほど、驚くことばかりで。事実が次々と明らかになっていくという感覚も読者に伝えたいと思い、推理小説の構成も参考にしました。大島さんにミステリーみたいだと仰っていただいたのは、ありがたいです。

大島 しかし、小池百合子という人が「希望の党」を立ち上げたことで民進党は破壊され、その後の野党、立憲民主党と国民民主党になったわけです。僕は小川淳也という野党政治家にカメラを向けながらつくづく思いましたけど、本当に小池さんという人は野党にいる大勢の人の運命を狂わせた。彼は希望の党から出馬して比例当選を果たすわけですが、支援者からはなぜ希望の党なんかから出るんだ、意思を貫いて無所属で出るべきだと声を受けながら、厳しく苦しい選挙戦を強いられました。

映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』より

石井 小川さんはかろうじて当選しましたが、あの選挙では全国に「小川さん」的な野党候補がたくさんいたんですよね。もちろん、そのせいで落選した人もいますし、そればかりか借金を背負った人だっている。小池さんはもちろん罪深いと思いますけど、同じくらい罪深いのは当時、民進党代表だった前原誠司さんだと思うのですが。

大島 一体あの人は何だったんでしょうね。希望の党に民進党全員が受け入れられると思って小池さんに単純に騙されてしまったのか、それともわざと組んで前原さんの切り離したかった左系の人を「排除」したかったのか。メディアはそこを検証していません。